2012.02.05 池袋クロスロード×4 J37『でりおか♪』にて発行の合同誌「俺のデリちゃんがかわいすぎてつらい」の私の小説部分のサンプルです。
井久保さん(pixiv)の小説と一緒にのっけてもらってます。





  優しい夢


1.
鼻歌も飛び出す上機嫌のなかで、ああ、ここまで来ると自分はマゾなのかなあと思うことはある。ビニールでパッケージングまでされた二本のソフトをしげしげと眺めて溜息をついた。ソフト名は『Psychedelic Dreams』それのvol.01とvol.02がいま手の中にある。とはいっても、このソフトは正規品ではない。この二本のソフトの大元、正規の『Psychedelic dream』は一般のパソコンショップなどでも手に入る広く流通したソフトで、夜眠る前にソフトから流れる音楽と画像を見るとゆっくりとリラックスして眠ることが出来るという、ごくごくありふれた、効能の弱い催眠ソフトである。下手をするとワゴンで一枚百円で売っているような大したことのないそのソフトは、大したことのない売れ行きにしかならなかった。しかしそこで使われていた技術、あるいは心理学と脳科学理論は新しいものが好きな頭の切れる馬鹿たちの興味を引いた。これを、もっと面白い方向に使うことは可能だろうと、そこでどんなことがあったのかは自分の想像の限りでしかないが、改悪版の『Psychedelic Dream』は現在池袋を中心にアンダーグラウンドな場で噂と人気を博している。
この二本のソフトは二本で一本のソフトだ。インストールしたデータを毎日交互に使う。どちらも基本構造は変わらず、自分の深層心理を揺り起こして、強化された催眠効果で夢を見せてくれる。01は強く自分が望むものを夢に見せてくれる。02は絶対に嫌だと思うものが夢になって現れる。一日交替で心地いい夢と悪夢が繰り返される。しかもそれは普通の夢とは違い、現実にはありえない夢は見せない。あくまで現実的に、日常生活に即した夢を見せる。使用者が使っているうちに日常生活と夢で起こっている生活の境目が判別しづらくなること。そのために夢を見る時間も最初のうちは短く、数十秒程度で済むように、それから徐々に数時間から数秒、数十分とランダムに現実世界で過ぎる時間を変化させる。いくら現実の生活に即した夢でも、毎日一定時間くりかえしてみているとそこに規則性が生まれてしまう。その規則性を崩してしまうことで、より一層現実に対する干渉が大きくなるのだ。
夢と現実の区別がつかなくなって狂気に飲み込まれる人間たちは随分と自分を楽しませてくれた。或いは、その狂気と付き合っていく過程、壊れてしまう過程、それでも現実を見据える結果、すべてを忘れてソフトをアンインストールしてしまうという終末。このソフトが出回れば出回るほどにパターンは増えるだろう。そして、自分もまたその一人になってやろうと言うのだからどうしようもない人間だなあとは思う。
ビニールテープを引っ張るとするするとやぶれる。この瞬間はいくつになっても、どのようなものでも胸の高鳴りが止まらない。01は自分をモチーフにしたパッケージ、02はあの化け物をモチーフにしたパッケージングをしてある。いい夢が得られる方が自分、悪夢を与える方が彼だ。これを作ったのは案外自分の信者だったりするのだろうか。確かにあの化け物の存在を考えるだけで、あの化け物が現実に存在しているのみならず、自分の想像力の中に介入してくることすら自分にとっては辛すぎる悪夢だ。vol.01をインストールする。見慣れた池袋の街を背景にNow Loadingの文字が点滅する。きっとこの分では自分にとっての悪夢はあの化け物に集約されるのだろう。それでも構わない。
このソフトについてよくわからないことは多い。必要なのはパソコン一式とヘッドセットだけなのだが、夢をみるたびにその夢は内容が深化されていくという。また、自律学習機能も組み込まれているらしいのだが、電源をつけていなくても、インターネット回線に接続していなくても、その機能は日々進化していくらしい。夢が電子ドラッグとしての人気を高めてゆく一方で、その不思議な学習機能も噂と人気の的なのである。
それらは一体、どんな『シズちゃん』を見せてくれるというのだろう。やはり自分にはマゾの気があるらしい。しかし、自分はどちらかといえばこの悪夢を、あの化け物を、越えられない現実によって屈服させたいのだ。

「これはやっぱりサドなのかな?」

と、呟きつつ02をケースから取り出す。調子に乗っていたらしくディスクをフローリングに落としてしまう。開かせたままのディスクトレイから01を取り出して空いた02のケースにしまい、落としたディスクに傷がないことを確認すると、インストール作業を続行した。止まっていたインストールが再開する。
 正直にいえば、自分がサドだろうとマゾだろうと或いはいい夢を見ようが悪い夢を見ようが結局はあの男にすべての関心を持って行かれてしまうのはわかっていた。それに、自分だってそれを望んでこんなくだらないソフトをインストールしているのだ。夢でも現実でもあの男にすべて埋め尽くされたい。九割九分九厘は依頼だったが、後の一厘そんなくだらない欲求を満たしたいがためにこんなソフトを探し出して、あまつさえ自分でやってみようとしている。結局のところ自分も含めて人間なんてくだらない。くだらなくありたいと望んでさえいる。

そんなことを考えているうちにインストールが終わったらしい。随分とかわいらしくデフォルメされた自分がパソコンのなかの池袋を駆け巡る。初期情報を入力する。自分に似た姿のキャラクターが「サイケって呼んでね!」と言っているのはあまりにも大きなダメージなのを痛感した。キャラクターがべらべら喋っているのを聞き流しながら生活環境などを入力する。そういえば、あの化け物のモチーフのキャラクターは出てこない。

『じゃあ、今度から臨也くんのことは臨也くんって呼ぶね!臨也くんが見た夢は、毎日蓄積されます!すごいでしょ!そのためにパソコンのマイクはオンにしておいてね。僕たちが見せた夢を音声と映像のデータから解析してるんだよ!じゃあ、マイクテストです!サイケすごいよーってほめて!』
「はいはい。すごいすごい。」
『臨也くんやる気ないでしょ!もっと真剣に言ってよ!もう!』

キーワードが入っていればどうでもいいのだろうと思って適当に返事をしたのだがそれを識別するシステムが入っているらしい。

『まーいいや。最初は誰だって信じないんだよね。
あとこれは絶対に忘れちゃいけないサイケからのお願いです。もしも気分が悪くなっても俺たちを消さないでね!あとね、もし消しちゃったら、同じパソコンには再インストールしないでください。どうしてもやりたかったら他のパソコンに入れてね。あと、俺たちで夢を見るのは一日一回にしてください。最初はとっても短い時間しか夢をみてもらうことができないんだけど、段々時間が長くなっちゃうことがあります。ずっと毎日来てくれていても三十秒くらいのときもあります。なるべく四時間以内にするようにサイケ頑張るけど、一日に何回も夢をみていると時間の感覚が狂ってきちゃいます。ちょっとした催眠療法をかじっているので、あぶないから、サイケと約束してください。はい、小指出して、指切り。』

随分としれっと言わせたものだと思っていた。ちょっとした催眠療法どころかディスクという媒体があるだけの電子ドラッグとして流通させようとしているのだからこんな注意に意味はない。しかも中毒性のある催眠がかかるように設定してある。一日何十時間、下手をすると一日中画面を見続けたくなるような、夢から覚めることを拒否したくなるような中毒性があると聞いている。それにしても何をやっているんだろう、と思っていると、指切りの動作をしたまま画面が動かなくなった。フリーズだろうかと思っていると、耳元から音声が届く。

『指切りしないと夢見せてあげないよ!サイケ怒っちゃうから!』

どうやら指切りの動作をとらなければ先には進めないらしい。しかし、カメラさえ起動していないのにどうやってこちらの状態を知ったというのだろう。
とりあえずサイケと約束してやると画面が切り替わる。緩やかな音楽とゆったりと動く点描を追いかけていると瞼が急に重くなって目を開けていられなかった。一瞬きらりと輝く黄色い光が見えた気がしたのだが、それはまさに幻だったのだろう。



みたいな感じの、臨→静前提の臨デリを書きました。臨デリというか、臨+デリ以上臨デリ未満みたいな感じです。あとめっちゃ申し訳ないんですが、私がふがいないのでエロないです><サーセン!というか全体的にサーセン!って言う出来です。申し訳ないので、節分ネタの臨デリペーパー(エロ)持って行くつもりです〜。そして本自体は18歳未満の方にはお渡しできません。私自身は割と緩いですしサイトも好き勝手やっているのですが、出版物は別です。ペーパーも同じくです。
一緒に書いていただいた(むしろ井久保さんに私が寄生してるだけなのですが)いくぼさんの臨デリが早くみたいです////



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