「こんにちは。よろしくお願いします。」
「わざわざお越しいただいてすみません…。いま、静雄呼んできますね。」
「いいえ、今日は平和島君と話にきただけですから、お部屋にお邪魔してもいいでしょうか?」
「そうですか?じゃあ、あとでお茶を持って行きますね。」
「いいえ、お構いなく!お邪魔しますね。」


 平和島君、と玄関から呼ばれる。折原先生が何を考えているのかわからないが、時期外れの家庭訪問は自分の部屋で二人で行われた。なんだか自分の家なのにそわそわと落ち着かない。

「部屋綺麗にしてるんだね。」
「先生が来るっていうから、掃除しました。」
「そうみたいだね。箪笥に服が挟まってるよ。」
「えっ?!あっ!」

 家庭訪問自体は学校の日程で行われるものが先日終わったばかりで、その時は担任がきた。それに普通はリビングでお茶でものみながら話してささっと帰るのが普通で、それに親を中心に話すものだから、折原先生が何を考えているのか自分にはまったくわからない。

「あの、先生…。俺何かしましたか?」
「ううん。今日のは俺の職権濫用。平和島君と話してみたかったんだよ。あと、話の種として、コレね。」

 そう言って取りだしたのは随分前に提出した作文だった。

「これね、俺すごく好きだったんだよ。論述としてはいまいちって言ったけれどね、これを見て平和島君てとても繊細でいい子なんだなって思ったんだよ。それで、君ともっと話したいなって思った。正直なところ、君の噂のせいで君のこと怖いと思ってたこともあったんだけど、でもね、君はきっとそれだけじゃないんだって思えるようになったんだ。」
「はあ…」
「文章書くのは好き?」
「はい…。先生がどうやって書けばいいか教えてくれるから、そしたら書くの結構楽しくて。話してるより自分の考えてることに近いことを書けるから、素直に話せて楽しいんだと思います。」
「うん、嬉しい。そういってもらえるのって、教師にとって何より嬉しいんだ。それに、嘘つかないで書いてくれるのが俺には嬉しい。岸谷君に流されてこのテーマになったけど、これはこれでよかったと思うよ。あ、そうだ、岸谷君と門田君のもここにあるんだけど、ちょっと見たくない?」
「え?」

 一生懸命に書いた他の人の作文をみてもいいものなのだろうか。しかし、新羅はともかく門田のそういう話は聞いたことがないので気になる。

「岸谷君はセルティの話ばかりだね。彼の恋の基準は彼女らしい。全く幸せそうだな。妬けるね。」
「あ、まあ、新羅は…そうですね。いっつもそうです。」「門田君は後輩からモテるみたいだね。これも妬けるなあ。まあ俺も学生の頃はモテてモテて仕方ない!!って感じだったけどね。高校生っていいなあ!うらやましい!戻りたい!ちやほやされたいな!平和島君だってモテるでしょ?」
「いや、俺は全然っす…。」
「そんなことないよ!俺が聞いてるかぎりではね。女の子は結構細かいところまで見てるものだ。でも結構願望混じりに見てるから付き合う時は気をつけた方がいい。」

 その時の俺は、はじめは先生が少しずつ距離を詰めていることになんて全く気がつかなかった。気がつけば肩に手を回されていて、たまにのしかかるように、まるで先生のほうが年下みたいに甘えた様子をしていても全然変に思うことはなかった。むしろそれは自然な温かさで肌になじんで、気付いていてもむしろそうあることが普通のように感じられる温もりだった。
 だけれど時折挟まれるぞっとするあの声だけはとても異質なものだった。

「平和島君はいい子だね」
「俺みたいなやつにもとても優しい」
「頑張って卒業しようね」

 言われていること自体は普通のことなのに、先生の声には不思議な響きがあって、自分の中で何度も何度も跳ね返って響く。

「ねえ、平和島君、静雄君って呼んでもいい?」
「下の名前ですか?はい…みんなそう呼んでますし、どうぞ。」
「そうなんだよ。みんな君のこと下の名前で呼んでて羨ましかったんだけど、ほら、俺基本的にみんなのこと苗字で呼んでるからさ、呼びづらくって。ありがとう、静雄君。」
「いえ、そんなたいしたことは…」
「俺のことも下の名前で呼んでもいいよ。覚えてる?」
「え…、なんでしたっけ?」
「臨也だよ。珍しい名前だけど覚えてほしいな。それで、他の学生がいない時にはたまに呼んでよ。自分の名前なのに忘れそうなんだ。」
「ああ、大人になるとあんまり下の名前って呼ばれないですよね。」
「そう、友達か恋人しか呼んでくれなくなる。」

 それってとってもさみしいよ。と、先生は言う。あのぞくりとする声で俺に言う。それがどういうことなのかは俺には全くわからない。ただ、先生のこの声は、少し怖い。
「あの、そろそろうち夕飯の時間なんで、」
「ああ、そうなんだ。ご飯早いおうちなんだね。じゃあそろそろ帰ろうかな。じゃあ、また月曜日にね。」

 話を変えて帰ってもらうと、さっきまで先生のいたところはほんのりと温かかった。逆にさっきまで引っ付かれていた腕や背中が薄ら寒い気がした。あのぞくぞくとした寒気がまだ残っているのかもしれない。その夜から、何故か寝付きが悪い。







折原は通常運転だけど静雄が別人過ぎて没にしようかとも思ったのですがエコの精神であげてみた話だったりします。ていうか完成してからあげたかったけどもうあきらめました。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -