神様は俺を指差して笑った9


そんな鬱々とした気持ちでノートパソコンに集まる情報を眺める。どれもこれも代わり映えしないありふれた日常。勿論、その日常こそが二度とかえらない出来事であり、その連続性や規則性に尊さがあるのだが、どうも楽しくない。楽しくないのだ。尊さを理解することはできるし、今この一瞬さえもがそれと同じだと解るのに、そう思いたくない。そんなものと一緒にするな!と、叫びだしてしまいそうだ。ざっと目を通しては、かたかたと適当に返信していく。

そんな中でも目にとまるのは、『自分と彼が手を繋いで池袋を走っている』だとか『ついに手を組んだ』とか憶測が憶測を呼び、それに尾鰭がつき、噂は広まっている。本当はなんてことはない。離れられないだけだ。もう声を大にして言ってしまいたい。彼と自分は離れられない。離れたくないのではなくて、離れられないのだ。それは自分の意思とは関係無しに決して離れられないのだ、と。
しかし、それはそれで面白くない気がするのは確かだ。それは必然のふりをしているが、偶然に他ならない。彼がこの力をなくしたら、自分はどうするつもりなのか。自分のことでなかったら言ってやるのに。

『折原臨也と平和島静雄はついに結ばれたということですねわかります!!』

そんなことを思っているとそんな記事が目についた。その後は熱いカップリング論争と、そこに至るまでの過程が種々様々に繰り広げられている。ああ、そうだった。池袋といえば、サンシャイン・ハンズ・乙女ロード。池袋で有名で、犬猿の仲で、一見優男とワイルド系のそこそこ顔の整った男二人。これは彼女らに餌を撒くようなものだ。さらに今のこの状態。まさに恰好の餌食だろう。
そこから彼女達の一大叙述詩に夢中になってしまった。一笑に附してしまうようなものから、どこまでひねくれて考えたらこうなるのかというようなもの、実は真実ととても近いのではと思わせるようなもの。そこに自分の興味を更に引く一文。

『なあ、誰か池袋か新宿のドンキの店員いないのか?あの二人がアダルトグッツ買いに来たりしないのだろうか。ちなみに私はすると思う。だって折原は絶対見せつけたいはずだから!』

そのあと、通販派、ドンキ派、専門店派と分化し、最終的には軟膏やオリーブオイルなどの日用品が多数派となっていた。(サラダ油は駄目らしい。こっちだってそれは御免だ)

今日一日を、どう過ごすかなんて一つしかない。人間だって、捨てたものではないはずだ。そうでなければ彼だって、とっくに愛想を尽かしているに違いないのだ。

*

目が覚めると満面の笑みで折原が待ち受けていた。

「おはよう!そんなに寝てて時間の浪費だとか思わないの?思わないんだろうね!時間は有限だよ?あ、ごめん、化け物にはそんな感覚ないよね。まあとにかく俺の時間は有限で限られてる訳だから、有益なことがしたいんだっていう一般的な主張を展開しておくよ!ってことで買い物いこう。シズちゃんのせいで朝七時から起きててすごいお腹減ったんだよね!」

折原にそう言われて携帯電話を開いて時間を確認すると、時刻はもうすぐ11時になるところで、本当にこいつが七時から起きていたのなら腹も空くだろう。それにしても眠りすぎた。折原のいうことではないが、確かに時間が勿体なかった。もう少し早く起きて、家に掃除と洗濯と着替えを取りに行くべきだったと思う。それに、不思議なもので、腹が減ったといわれて、11時という時刻を確認してみるとこちらの腹まで減ってくるものだ。起きて、食事をしなくては、という気分になってくる。

「ねえ、早くいこうよ。どうせタクシーだから服もそれでいいじゃん。嫌なら俺の貸してあげるよ」

それは御免だといいながら、起きる。折原に繋がれた手は相変わらずがっちりと恋人同士のように結ばれている。それを見なかったことにして折原にタクシーの手配を頼む。一旦家にいかなければ。朝のことを考えて昨日の仕事終わりに家に一度寄って、いつもの仕事着と寝間着のスウェットは持ってきていたのだが私服がない。このままでは買い出しなんて行けない。
急に昨日の夜先輩からメールが来て今日休みになったのだ。文句をいう訳ではないが、もう少し早くメールをくれればよかったのに。そうしたら、折原が自分に寄り添って眠っているところなど見なくてすんだのに。見たくなかったし、その体温も感じたくなんてなかった。こんなに素晴らしいものだなんて知りたくなかった。

タクシーは近くを回っていたらしく、案外すぐに到着した。池袋の自分の家までは近い。

*

家に帰るのは、やっぱり落ち着く。壁に染み付いた自分の匂いとか、ほしいものの場所がわかっていることだとか、そんな些細なことだけれどとても安心できる。折原の家は折原の家であって、そこでは自分は異物にしか過ぎない。コーヒー一杯飲むのだって気安くない。

「ねー早く!着るものなんてシズちゃんちのクローゼットのなかじゃ何着たって一緒だよ。やっぱ貸してあげればよかったかなあ」
「うるせえ見んな。大体お前の服じゃ丈足りねえだろ。チビ」
「あー、シズちゃん無駄に手足長いもんね。でもね、俺だって比率的には長いほうなんだよ?それにシズちゃんみたいなモヤシ体型とちがって、脱いだら結構凄いんだよね。シズちゃんが貧相に見えるくらいは筋肉あるんだよね。あ、俺の背が伸びなかったのってシズちゃんのせいかも。俺の筋肉って殆どシズちゃんのせいでついたからね。知ってる?筋肉ついてると骨の成長が妨げられるんだよ」
「うるせえな!黙って待ってろ!」

ひょろひょろとした体型は自分のコンプレックスだ。それに、折原の体だって風呂で見た。筋肉と傷だらけの体は、まさに自分のせいでそうなってしまったのだろう。
それにしても服が決まらない。適当でいいとは思うものの、出掛けるとなると、折原がどんな店に行くかと思うと少し困る。本当に適当に選んで、向かう先が高級ブティックなんてことがあったら困る。だけれど、だからといってそんなところに着て行けるような服があるかというと、そうでもない。

「あ、そうだ。この間幽にもらった服があったな」
「え、シズちゃん私服も弟君からもらってるの?」
「あいつセンスいいし、仕事の関係で貰うらしい。サイズが大きいといつもくれるんだ」
「それ多分嘘なんじゃない?幽君シズちゃんのために買ってるんだと思うけど…」
「まあどっちにしろ幽がくれるものなら貰うだろ。そうか、今度何か返さないとな」

そういえば確かに、仕事の関係で貰ったのならサイズが大きいのはおかしいかもしれない。今度幽に効いてみなければ。そう思いながらクローゼットの下に開けられないままに置かれていた紙袋を引っ張り出す。流行に疎い自分ではわからないが、これなら多分大丈夫だろう。丁度上から下まで揃っているしこれでいい。

「なあ、買い物って何処に行くんだ?メシ買うだけならこれ開けたくねえんだけど」
「いや、それのほうがいいと思うよ。ご飯ももうお昼だしどっか入って食べようよ。ちょっと良いとこ連れてってあげるからさ。夜も食べて帰ろうよ。何日もレンジで温めただけのご飯は嫌だし、作ろうにもちょっとやりずらいし。池袋が嫌でも新宿だったらいいでしょ?」

ちょっと良いところ、と聞いて心が動く。折原のちょっと良いところ、というと自分にとっては一生に一回も食べれないようなものが出てくるようなところではないだろうか。そんなに食い意地の張っているほうではないと思うが、それはちょっと食べてみたい。しかも奢りならなおさらだ。
結局ひとつ頷いて、紙袋の封を開けた。

*

「さすがに芸能人だよね。幽君センス良いなあ。まあ着てるのがシズちゃんっていうのがちょっと勿体なかったね。服に着られてるよ!」

そう言って笑う折原に何か言いたいのだが返す言葉がない。幽や折原だったら着こなせるのだろうが、こういうちゃんとした服を着慣れていない自分にはそれは少し荷が重い。ちゃんとした、と言ってもジャケット一枚で、今はそれもコートで中の服は隠れてしまっているのだが、それでも通り過ぎる視線が痛い。いつもの、池袋で感じる視線のように受け流せるような視線でないのが気になる。折原までちらちらとこちらを覗き見るのが落ち着かない。

そのあと、昼を食べて(見たこともないような海老の乗ったスパゲティだった。伊勢海老かと思ったがセミだとか言われてからかわれた。セミがこんなに旨い訳無い。)何件かブティックを回って(自分でも知ってるような高級店だった。でも冷やかして帰ったので、自分をからかうために連れていったのかもしれない)夜を食べて(フォークとナイフが多すぎてどうやって食べたらいいのかわからなかった。だけど料理はやはり旨かった。)そろそろ帰るのかと思うと、折原がドンキホーテに行きたいと言い出した。何でも、生活必需品はドンキホーテで買っているらしい。嘘臭いが本当らしく、今日も行ったブティックの高そうな財布の中から何枚かクーポンを取り出す。なんだかその対比が可笑しくて笑ってしまう。折原がこのメゾンの財布を持っていても全く下品に見えないのに、中からクーポンを取り出すとまるで似合わない。さっきすれ違ったヤンキーから拝借してきたと言われたほうがしっくりくる。

「言っておくけどこれは正規店で買ったやつだからね。ドンキで買ってないからね」

わかってる、と笑いながらこたえる。だけど、おかしいものは可笑しい。くすくすと笑っていると折原に手を引かれる。新宿の夜は眩しい。人が沢山いて、がやがやとしていて、時間がわからなくなる。
しかし一体何を買うのだろうか。シャンプーはまだあったし、トイレットペーパーだってまだあったと思う。食べ物もあれだけのものを常食にしていてわざわざドンキホーテで買うこともないだろう。それに店内に入ってから折原は目的地は決まっているかのように真っすぐ歩き続ける。化粧品のコーナーや輸入菓子のコーナーを横目で追いながら手を引かれているのだが、何処に向かっているのか、初めて来た店舗のためわからない。

「あー、大変言いにくいんだけど、一言でいうとアダルトグッズだよ。俺はね、気がついたんだよ。俺くらいになると寧ろ一人でするときがとても貴重な行為になってくるんだって、その時を最高のものにするためには、いろいろとあったほうが良いんだよ。レベル99の勇者でも装備が不十分だと魔王には勝てないだろ?つまり、ローションは一人でも使ったほうが絶対気持ちい…!ったいな!!何するのシズちゃん!」

「うるさい!黙ってろ!!なに、な、なに言ってんだよ!!そんなの、こんなとこで…!」
「こんなところってここだよここ!そんなコーナーでしょ?あ、シズちゃんもなんか買ってく?これなんて良いんじゃない?アナ…!」
「うるさい!帰るぞ!!ていうか帰る!」
「えーじゃあ買うものだけ買わせてよ。俺の生活必需品だしいいでしょ?」

なるべく周りを見ないようにしながら商品を手にとった折原に連れられてレジまで歩く。恥ずかしい。なんでこんなのについて来てしまったんだろうか。大体、しばらくはソレだって使わないはずだ。使うことは断固拒否させてもらう。知り合いの、しかも仮にも好きな奴の自慰など見たくない。
折原が財布を取り出す。片手が使えなくて小銭が取り辛そうだ。そこではっとして顔を上げる。商品をレジ袋に入れているのは女だった。目が合うと気まずそうに目を反らされる。そこで恥ずかしさが頂点に達する。握っている手を思わず離そうとしてしまう。手が離れると折原が胸に倒れ込んでくる。折原がくすくすと笑いながら頬を撫でる。

「我慢出来ないの?シズちゃん…?」

こんな折原の声は聞いたことがなかった。耳をねっとりと舐め上げるような声。体が怒りや羞恥だけでなく戦慄く。ぞくりと体を駆ける確かな情欲の生々しさを感じた。

だけれど、なんだかおかしい。あの『引っ張る』感じがない。折原は確かにべったりと自分に寄り添っているのに、それはさっきまでのように無理にくっついているような感じじゃない。おかしい。折原も、そんな自分の反応を訝しげに見ている。
しかしそれ以上レジを占領するわけにもいかず、金を払うとそそくさと店を後にした。

「シズちゃん、さっきどうしたの?」
「なんでもねえよ。手前があんまり阿呆だから怒る気も失せただけだ」
「あっそう。せっかく心配してあげたのに」

大通りに出るとタクシーをつかまえる。ここから折原の家まではそうかからないだろう。黄色いレジ袋がガサガサと鳴る。そういえば、今日こんなに歩き回ったのに買ったのは結局これだけだ。なんとも少ない収穫だ。
どうしてあんな感じがしたんだろう。折原が変な声をだしたからだろうか。いや、それは多分関係ない。寧ろ折原の声に感じ入っていたのは自分だ。胸を熱くさせるような声。求められてると思わせるような、酷くされたいと望ませるような声。あんな声を聞いていたのに、ここ何日かのパターンなら、もっと強く折原を引き寄せているのがわかるのに、それがなかった。

ぎゅう、と握られた手に力がこめられる。折原は基本的にはこの手を緩く絡めているのだが、なにかの折には強く握りしめる。自分の制御不能な力よりはずっと弱く、自分の平常時の力よりは遥かに強い力で。その時自分はまるで心臓まで握られたかのように胸が痛む。握り返すことのできない歯がゆさや、隠しようのない喜び、いつまでこうしていられるかと考える不安が、折原の手の中に握られている。
案外、その日は近いのかもしれない。自分が折原から離れる日、すべてに対して諦めざるをえない日がすぐそこまで来ているのかもしれない。いつの間にかこんなふうに恋人のように手を繋ぐようになったように、いつの間にか離れてもう二度と会わなくてもよくなるような終りがそこまで来ている。折原は気がつかない。気がつかれないようにいなくなろう。きっとそうしよう。もし居なくなっても折原が自分をさがしたりしないように、居てもいなくてもいい存在になろう。この恋の終りには、必ずそうしよう。

*

「あー面白かったなあ!見た?あの店員の顔!あんぐりって感じだったね!しかもシズちゃんがリアルに恥ずかしがるからかなり臨場感出たよね!見てみてシズちゃん!これ、池袋近辺の情報掲示板なんだけどさ、もう大盛上がり!いつもは日陰ものの臨静派がお祭り騒ぎだよ!あ、胡麻油党員が出てきてる」

夜は同じベッドで寝ていて、そこにはノートパソコンが置かれている。家に帰ってからは基本的にベッドの上で過ごすことが多い。自分も折原もテレビはあまり見ないし、家にいる間くらいは折原に仕事をさせた方がいい。こいつの場合趣味も兼ねているし、この生活の気晴らしになるだろう。だから夜寝る前も折原がパソコンをいじっているのはなんら不思議な事ではない。だけれど、その内容を自分に見せようとするのは初めてだし、よくわからない単語が羅列されている。いざしずとかゴマ油とかなんなんだ?
そう思いながらパソコンを見ると、さっきの出来事が事細かに描写されている。特に、折原が自分のほうに倒れ込んだところは熱が入っている。『二人はまるで引き寄せられるように抱き合った』引き寄せられるまではあっているところが悔しい。
それにしてもなんだかレスがおかしい。イザシズとシズイザというもので揉めている。『イザ』は話の流れから臨也のことで、『シズ』は多分自分のことだろう。だけれど何故か自分と折原の関係には似つかわしくない単語が多く使用されている。

「らぶらぶえっち…」
「いきなり何言ってるの?」

こいつらの頭のなかでは自分と折原がそんなことになっているのだろうか。何を考えているのだろうか。というかこんなに熱く語っているがそれでこいつらに何の得があるのだろう。真実なんて何も含まれてはいない、都合の良い絵空事だ。
だけれど、それは自分の望みも確かに含んでいる。セックスは置いておくとしても、言い逃れが出来ないほどに、それは自分の望む自分と折原の関係の在り方だった。そんなことなんて、永遠にありえない、だからこそ夢見る、そんな関係。

「うーん、良い具合に炎上してるね!まあ火種が燻ってるところにガソリンぶちまけたのは俺だけど、ちょっと予想より凄い盛り上がりだなあ。見てよこれ。投稿してるの新潟からだよ。俺達有名人だね」
「これ、なんでこんなとこから投稿してるんだ?なんで俺達のこと知ってるんだ?それに、絵とかもあるし、写真とか回ってるってことなのか?」
「うん、多分回ってるね。シズちゃんも俺も一応一般人なんだけど、池袋じゃ有名人だからね。写真撮ってるやつなんていっぱいいるよね」
「これ、消せないのか?」
「出来ることは出来るけど、こんなに一生懸命に書いてるんだよ?それに消すのだって楽じゃない。それを俺に頼むの?」

叶わないからこそ見たくなかった。しかも、まるで自分の思いを見透かされているようで悲しかった。叶わないから隠している思いを無遠慮に慰められたような気持ちだ。気持ちの悪い、おかしさ半分の慰め。それは化け物と呼ばれた自分にかわいそうだから、といって差し延べられた手を見ていた時のような気持ちだった。悲しい、汚らしい、そんな人間にさえ自分はなれなかったのだと突き付けられるような、そんな気持ちだ。

「もういい。せめてそれ閉じろ。もう、寝るから」
「うん、もうちょっとだけね」

見ていられなくてベッドにごろりと転がって目を閉じる。まぶだの端から涙がこぼれそうだった。鼻がひくひくと鳴る。嫌なことまで思い出してしまった。考えなくてはならないことはもっと沢山あるのに。
隣で楽しそうにしている折原がうらめしい。なんでそんなふうに見ていられるのだろうか。自分のことなのに。自分だけのことではないのに。

「気持ち悪かった?嫌だった?人って怖いね。だけれど俺は彼らが愛しいよ。いつでも俺のほしい答えを示しだしてくれる。シズちゃん、君は思い通りにならないけれど、俺は対人間でならどんな人だって思い通りに動かせるんだよ。どうして、シズちゃんは思い通りに動いてくれないんだろうね。人間じゃないんだね。それか俺の努力がまだ足りないんだろう。シズちゃんが化け物なのを認めるか、俺がシズちゃんを人間のなかに含めることが出来るようになるか、どちらが先だろうね。俺は自分が死ぬまでに君を人間にすることが出来るかな」

折原の言葉はいつも限りない絶望の色をしている。自分が人間に含まれたい理由と、含まれない理由をはっきりと晒す。疑問形で断定する。自分は折原に愛されない。愛されたいと思っても、それは与えられない。偶然にも自分が化け物だったせいで。だけれど、そのせいで自分と折原は相反する存在として離れられない関係にいることができる。愛されない、憎まれる、だけれど放されることはない。


ひとつぶ転がっていった涙を、折原の指が払った。細い、白い、脆い指。その指は優しい。愛しい、縋り付きたくなるほどに愛しい指なのに、自分からその指にふれることは叶わない。そうすればきっと、この優しい時間を壊してしまうだろう。

パソコンを閉じた折原は、じぶんの隣に転がる。頬を撫でられて、くちづけられる。胸が痛かった。可哀相と言われた時に差し延べられた手を、それでも振り払えなくて握りしめた時のように、嬉しくて胸が熱い。それが悔しくて心臓が痛い。折原の腕が背中に回って、自分を引き寄せる。背中を優しくたたく。
その夜は折原の胸に抱かれながら泣いた。背中をたたく手の温かさを感じながら、その酷薄な心を責めた。決して口にはしない、自分の弱さを責める人間はどこにもいなかった。






折原の頭の中は「らぶらぶえっち」なことでいっぱいいっぱいなのであんまり責めないであげてください

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