神様は俺を指差して笑った2




途中コンビニに寄って、家に帰った。家に帰るとどっと疲れた気がして、腰掛けるだけのつもりだったベッドにいつしか倒れ込んでいた。変な事が起こって、緊張していたのだと思った。一人になった事で、誰かを引っ張る心配がなくなったからやっと安心出来た。
セルティがバイクから落ちた時、これは喜べるような力じゃないのだと思った。そんな、軽い力じゃない。危険なものだ。
先輩を引っ張ってしまったときは、正直、少し嬉しかった。触れる体温が嬉しかった。触れたあと、気まずそうに笑って、それでも、喜んでくれて嬉しいと言ってくれるのが、本当に嬉しかった。悪いな、という気持ちもあったし、嬉しく思ってしまうことへの罪悪感もあったのだが、でも嬉しかった。

だけどやっぱり、嬉しいと感じてはいけないのだ。そう戒めるために俺にこんな力が備わったのかもしれない。俺が嬉しいと思うことはいけないことなのだ。俺はやっぱり化け物なのかも知れない。だけど、せめて、出来るなら、俺に少しでも人間の部分が残っているのなら、なんとか『喜ばないようにする』努力をしよう。そこの部分だけでも残っていてくれるといい。そのほかは、もう、化け物になってしまったっていい。
目の前が潤んで、瞬きをすると涙が出てきた。俺は化け物だ。化け物に感情なんていらないのに。嬉しいと思えないのなら、辛いことも感じられなきゃいいのに。


『シズちゃんが人間じゃないことを認めてくれれば、俺は、それはそれでシズちゃんの存在を認めてあげる。人間以外だったらなんだっていい。君は人間じゃないよ。まあ、俺は人間しか愛せない普通の人間なんだけどね』


折原臨也のことを急に思い出した。はっとした。思わず跳ね起きた。しかも思い出した内容がまずい。どうしよう。どうしようもない。そうだ、嬉しいと思えないのならあいつにも会えない。絶対に会えない。そして俺は一生折原臨也に愛されないのだ。



俺が何故折原臨也のことを好きだと思うようになったのか。その明確な理由はわからなかったし、わかりたくもない。もしわかってしまったら、俺はこの恋を消し去ることが出来るだろう。だから、絶対にわかりたくない。言葉であれこれ考えていると、気持ちは簡単になくなってしまう。悲しさも、嬉しさも、言葉にすると「なんだ、これだけの事じゃないか」と思ってしまうほど薄っぺらくなってしまう。どんないびつな形であれ、俺から折原への一方通行な思いは俺に大きな喜びをもたらした。街で黒いコートを見かける度に、薄汚れた路地裏で走る足音を聞く度に、それが見間違い、聞き間違いだったとしても俺の胸は熱くなった。折原の事を思い出した。いくらあいつが自分のことを嫌っていても、そう思うことだけは自由だ。

俺は自分が人間だと主張することが思い上がりであることを知っている。自分は、あいつの言うように、化け物だ。だけれど、それでも自分は愛されたかった。他の誰でもなく、折原臨也に愛されたかった。もしもあいつが知り合いのように人外でも関係なく自分を愛してくれるというのなら、俺は今すぐにでも化け物だと認める。だけど、折原はそうではない。いろいろな意味で、あいつは人間らしい人間だ。だから、俺はどうしても人間でいたかった。だけれど、それももう諦めなくてはならない。

この力はおそらく、折原を酷く傷付けるだろう。セルティや、先輩のときのような幸運が折原と会った時に訪れるかどうかはわからない。それに、今まで悪意をもって触れていた自分に好かれていることを知るのは、折原からしたらあまりにもショックな出来事だろう。自分のしていたことはまるで無駄で、むしろ自分を喜ばせているにすぎなかっただなんて。もちろん、自分だって手放しで喜んでいたわけじゃない。自分の好きな相手が自分に向けているのは嫌悪をもとにした悪意で、その口からは絶えず自分を否定する言葉が出てくる、そんなのは、辛い。だけど、自分が折原に出会えなかったことを考えたり、折原ともう二度と会えないことを考えるよりはなんでもないことだ。まったくもって、すべて喜びになる。

だけれど、その喜びももう終わりだ。喜びなんて、感じてはいけなかったんだ。こんなことなら折原臨也と出会いたくなんてなかった。もう二度と会えないなら、こんな絶望を味わうくらいなら、心なんて必要なかったのに。

力無くベッドに倒れこむと涙がぽたぽたと流れて、耳元のシーツが濡れている。目を閉じて、どうか開くことのないように願いを込めて眠ったのだが、眠りが訪れたのは、もう空が白んできたころだった。




まだ続きます。3話完結とか無理だった。


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