7輪目

 

「え? どういうことですか?」


 アレンは、報告中に聞き返す。任されていた仕事も終わり、ティムに向けて業務連絡をしていた時。通信相手――コムイから言われた言葉に驚いたからだ。彼は言った。


「リズちゃんとね、連絡が取れないんだ。リズちゃんが任務に出たその日から」

「それは……」


 心配だ。彼女はいつだって真面目で、事が進む進まないに関わらず定期連絡をかかすことはなかった。それはアレンと組む時も、一人のときもそれ以外の時も変わらない。そんな彼女が急にそれをさぼるだろうか? いや、アレンにはそうとは思えない。


「僕はね、リズちゃんになんらかの異常事態が起こっているんじゃないかと思う。アレン君が今いる場所から、リズちゃんの任務予定地まで近いから、急だけど救援にいってあげてくれないかな」


 アレンは是とうなずく。言われなくとも、分かっているといわんばかりに。


「分かりました、すぐに向かいます」

「最悪な事態も考えられる。――くれぐれも、気を付けて」


 ぶつりと途切れた回線。アレンの中に嫌なもやが渦巻いていく。なにかとても嫌な事が起こっている。
 襲われて怪我をした。アクマの攻撃をうけて、動けないでいる。話も出来ないくらい痛めつけられている。もしかして、死……。

 ――考えていてもらちが明かない。


「ティム、行こう」


 彼はゴーレムに向け、呼びかけると駆け気味に向かった。アレンが彼女を見つけるまで、あと……。



―――*−*−*―――




 とある屋敷の庭。用意された簡素な椅子に腰をかけ、ぷらぷらと足を前後にゆらしながら。私はくるくると髪の毛を弄びながら、物思いにふける。
 口を開けば、ファインダーだの教団だのといった言葉がそこらじゅうを飛び回っていた家の中。父も母も何かと物事を結び付けては、私に彼らの常識を叩き込む。来る日のためと生まれた時から『英才教育』を施され、物心つく前に覚えた単語は「エクソシスト」だ。慈善事業が好きだったのだろう。一般人から認知されずに、彼らを守っているという優越感。そして他人よりも詳しく内情を知っていることでそれらよりも自分の地位は上だと思いたかったのだと思う。

 私は、家族のことを好いてはいなかった。

 ――いや、訂正。私と五つほど年のはなれた妹たちのことは、嫌いではなかった。私が歩くたびにとてとてと愛らしく笑みを浮かべながらついてくるのを見るたびに、姉というだけで無条件に好いてくれる彼女たちを見るたびにああ、守ってあげなければという気持ちになったから。

 話を戻すことになるが、両親はそんな私「たち」に、協力者(サポーター)になることを強要したし、あまつさえファインダーになれとさえ言った。幼い妹をファインダーになんてしたらやりたい事やなりたいもの、色々なものを諦めなければならない。だから私は妹をファインダーにするには若すぎると反論した。


「そんなの、入ってしまえば同じよ」

 ――でも、

「若いからこそ、早いうちに覚えておいた方がいいじゃない? ね?」


 答えはそんなものだった。母親とはこんなものか、と失望したと共に一般受けする聖母のような笑みとやらが厭らしく汚らしいものに思えた。娘だなんだと言いながら、求めることはそれだ。ほどなくして、あっけなく両親がアクマから殺されたときはさすがに同情したけれど。いわんこっちゃない。やっと解放されるのだと思ったら、ほどなくして親族が騒ぎ出した。


「君も、妹も育ててやるから、サポーターになればいい」


 ファインダーより危険が少ないとしても、冗談じゃない。両親は"そう"だったせいで殺されたんだぞ? それをよくもまあ簡単にいってくれるな。

 ――よーく、分かった。

 今すぐ逃げ出せるくらいの金もないが、このままいくと妹がアクマと関わりを深くしてしまう。彼女たちの生活の安定が第一だ。

 ――私がファインダーになる。だから少しの間だけ、妹のことをお願いします。


 と、私の肩を軽く揺さぶる者があり、考え事をやめるとそちらを向く。


「お姉ちゃん」


 なんて可愛いのだろう。思うと同時に抱きしめた。私には彼女たちがいたらそれでいい。ぐぅ、と苦しそうな声を上げる彼女に満足して体を放すと、聞き返した。


「なーに? どーしたの?」

「痛いよ……。クッキーを焼いたの、食べるでしょう?」


 ああ、幸せってこんな感じだ。


 


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