標的15
あわわ、なんて今にも言い出しそうな綱吉と、「はあ、何やってるんですか」と雲雀を見る蓮華。どうして綱吉をここに、と雲雀に聞けば「この病院で騒いで居たから」と良く分からない答えが返ってきた。
「先に教えてくだされば、わたしだって邪魔になる前に帰りましたよ」
「沢田綱吉が来るまで、暇をしていたんだ。空柩が来たから、さっきまで忘れていた」
――それは、まあ。蓮華に非があると言えなくもない。「すみません」と口先ばかりの謝罪をしながら。おいてきぼりになっているであろう綱吉に向けて、
「雲雀先輩が入院をしたと聞いたから、そのお見舞いに。綱吉くんも入院していたんだね」
「ちょっと色々あって……」
「そうなんだ。……今日はあの、黒くて小さいのは居ないの?」
「もしかしてリボーンのこと? さっきまで居たんだけど、どこにいったんだアイツ」
きょろきょろと辺りを見回す綱吉。リボーンが居ないのならその方が蓮華にとっても好都合だ。雲雀の見舞いも終わったことだし、はやくお暇させてもらおうと口を開きかけたとき。おもむろにドアがスライドされて蓮華にとっても見覚えのある顔が入ってきて、雲雀の顔を目に止めると光の速さで頭を下げた。かと思えば雲雀への感謝の言葉をぺらぺらと語りだす。
「院長先生――何をやっているんですか?」
良い大人までもが雲雀の掌の上とは。並盛は恐ろしいというか、知り合いのこんな姿を見て蓮華の心中は複雑だ。対する院長もまさか知り合いがいあるとは思っておらず、蓮華に気付いた途端に「は……はは」と苦笑いを始める。
「何、空柩も院長と知り合いなんだ」
「ええ、まあ……。わたしは雲雀先輩の顔の広さにびっくりです」
それではそろそろ二度目のお暇を決めようかとした蓮華だが。二度あることは、なんとやら。この調子なら三度目もあるのではないかと疑いたくなる彼女の前に現れたのは、『どこかしら』の理事長だ。理事長の姿を認めた院長は挨拶をしながら頭を下げた。理事長はそれを手で制すると、蓮華に向けて声を掛けた。
「探したよ、蓮華」
蓮華は軽く舌を打つ。なぜこいつが、この階をうろついているのかと。まさか自分のことを探して一階一階を調べてまわっていたのであろうか。
「場所を指定しない方が悪いんですよ。もともとわたしの目的は、おみまいに来ることだったので」
「冷たいことをいうなあ……。別にいいけど、それを渡してくれるとうれしいな」
「これのことですか?」
言いながら、彼女はスーツケースを持つと理事長のもとに歩み寄る。うっすらと微笑みながら、スーツケースを気だるげな動作で持ち上げると、理事長に向けて投げつけた。
「驚いたな、もう」
にこにこと笑う理事長は難なくスーツケースを受け止めた。何てことのないようにしている彼に蓮華は今度は表情を消して大きく舌打ちをした。
「何やってるの空柩さん!?」
と綱吉が声を上げる。この場所には彼らも居たのだと蓮華が思い出すと、慌てて弁解をしようと口を開く。が、結局何も浮かばずに困った風に笑う。そうしている内に雲雀が蓮華に呼びかけた。
「誰? 空柩の知り合いなの」
「え、ああ……なんというか……」
「院長、そろそろ時間だ。――そうそう、君は沢田綱吉くんだね? 小さな赤ん坊によろしく言っといて。娘をこれからもよろしく、それじゃあ」
娘? と蓮華の方をチラ見する綱吉。ひらひらと手を振りながら、ウインクを院長の方を抱き素早く出て行った。雲雀は蓮華に向けて、自分を無視するのか……或いはどういう意味なのかというのを込めて眉を潜める。蓮華はそれに対するこたえを探しているように見えるが、雲雀に向けて更に困ったような笑みを深くした。が、それもいつやってきたのか分からない黒い赤ん坊の再度の一声で解決した。
「理事長――和仁は、そいつの父親だぞ」
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