拝啓。貴方様





※今現在サイト内でやっている現パロとはまったく違った現代パロディです



俺ことラモンは今現在安いアパートに住んでいるのだが、隣の部屋に気になる人間が住んでいる。つまらない会社勤めを済ませて帰ってくると、すれ違いに出掛けて行く為よく顔を合わせるその人は、いつも首から手首足首まで隠れる服を着ていた。タートルネックにコート、ブーツは幾つか持っているらしいがどれも黒である。夏場は流石にコートを脱いではいたが、同じように首から下まで覆う服を来ていて、いつも変な人だなとじろじろ見てしまっていた。
その人の家には汚い標札に手書きで鬼柳と書いた紙が差し込まれている。鬼に柳できりゅうと読ませるのは珍しいなといつも思っていた。以前100円均一の店で印判のコーナーを見掛けた際に少し探してみたが、どうにも鬼柳という苗字は見付からなかった。
とまあ語ってはみたが別に苗字が気になるという話ではない。単刀直入に言うとその鬼柳という人間に好意を抱いていた。四捨五入すると三十路突入の微妙な年頃である俺は、更に単刀直入に言うとその鬼柳に、いや鬼柳さんに恋をしている。すれ違いを成功した日は幸せな気分になった。
まあ話した事は一度もない。じゃあどうして好きなのかと思うだろうが、正直な話顔が好みなのである。どんぴしゃである。
肌が白く目は切れ長で、唇が薄い。髪も染めているのか色素が肌同様に薄く、長い。伏し目がちな目は睫毛が長くて綺麗で、しかし暗がりにすれ違ってばかりなのでまあ雰囲気でしかわからないが、だがとにかく美人なのだ。そして俺の好みピンポイントである。

何をしている人なのだろうか。8時頃に家に着くと必ずすれ違うのである。ミステリアスな雰囲気も好みだったので、その疑問すら少しわくわくしてしまっていた。
学生で、夜にバイトしているのだろうか。それとも夜の仕事をしている人なのだろうか。ほぼ毎日あの時間に夜、用事があるとは思えない。考えると気になる反面、少し情けなかった。あの鬼柳という隣の住人は、俺の事なんて微塵も気にかけていないだろうに。
今日も母から送られて来た見合い写真を眉をしかめながら眺める。化粧映えする着物の女性は華やかで綺麗だし、料理上手らしいという添えられた母の手紙を見てはスーパーの安くなった惣菜で済ませた夕飯が酸っぱく感じて来た。
しかし、しかしだ。どうにも隣の住人が頭から離れないのである。話掛ける勇気もないくせにと自分を責めた。一生独身、というのは正直嫌だと思う。




「あの」

ある朝の事だ。
その日は快晴。6時に目覚めて6時30分に家を出る俺は、地区指定の袋に入った可燃ゴミを片手に部屋を出る。
階段を下りてポストを覗き、それから少し歩いて見えて来るアパートのゴミ捨て場に可燃ゴミを置いた。
丁寧に設置されたカラス避けのネットを被せて、さあ出勤だという時に、背後から声をかけられた。

「はい?」

振り返って俺は言葉を無くす。このアパートには俺と同じ時間にゴミを出す人間はいないので少し疑問には思ったのだが、しかし振り返るまでの短い時間では答えが出る訳がなかった。よって俺は酷く困惑してしまう。俺に声を掛けたのは隣の部屋の、鬼柳さんであった。

「今日は不燃ゴミの日だぞ」

「………え?」

「可燃は明日だ」

「……あ、そうでしたっけ」

「ああ」

振り返ってゴミ捨て場に貼られた収集ゴミのカレンダーを見遣ると、確かに鬼柳さんの言う通り今日の日付には不燃ゴミと書かれていた。
ネットをめくり、自身の不燃ゴミの袋を置いた鬼柳さんは俺の置いた可燃ゴミを持ち上げて俺に渡す。受け取って、ありがとうございますと小さく言うと何故か一拍置いてから微笑まれた。

「それじゃあ」

すたすたと鞄を抱え直しながらアパート前の道を歩いて行く姿を眺めて、俺は暫く放心状態のままでいた。
頭の許容量が遥かにオーバーしている。故障してしまいそうだ。

まず、鬼柳さんに朝出会った。酷く珍しい。そして初めて会話した。震えてしまっていなかったか不安だ。それから微笑み方がすごくすごく綺麗だった。倒れてしまいそうだった。あと口調が案外砕けていて吃驚した。すごく吃驚した。

というより何よりだ

「……鬼柳さんて男なのか」

声が低かった。いや青年にすれば普通の高さだ、だが、女性とは思えない低さである。それから明るい時に出会ったからわかったが、よくよく見れば男性にしか見えない風体をしていた。背も高い。

「………あ、そうか可燃ゴミ置いてこねえと…」

なんだか酷く脱力した。もうどうしようか。悲しいくらい脱力している。
もういない鬼柳さんの部屋を見上げて溜息を吐き下す。詐欺だと呟いてもあまり気分は晴れなかった。





俺こと鬼柳京介は今現在ボロいアパートに住んでいるのだが、隣の部屋に気になる人間が住んでいる。大学の費用と家賃とを稼ぐ為に夜にもバイトに行っているのだが、その時にたまにすれ違うのだ。サラリーマンだろうか、三十路前くらいの少し疲れた様子の男性である。挨拶もなく横を通るだけなのだが、それだけでいつも心が弾んだ。
といっても俺は男で、彼も男である為にいつも素知らぬ顔で意識しないようにしている。何故男性なんかを好きになってしまったのか、かなり奇っ怪であるとはわかってはいた。
安いアパートなので標札は手書きしなくてはならないのだが、彼は何故か標札に名前を入れていない。その為に名前がわからず少し、いやかなり気になってきてしまっている。
同性を好きになったのは生まれて初めてだ。しかし、人を好きになったのも初めてだった。女の子と付き合った事はあったが、好き、とはなにか。よくわからなかった。
だがこうして隣の住人に今向けている感情。これは好きという気持ちだと思う。いつも壁を見詰めては虚しくなっていた。

どこが好きなのかと聞かれれば様々である。最小限に、しかしこだわりは捨てないラインなのか休日に彼の部屋から洋楽が聞こえてくるのだが、バラード調のそれはお気に入りなのかいつも同じだ。その隣人に配慮した音量の事と、しかしこだわりを守る姿と、それからとても俺好みの音楽を聞いている事やらに気付いたのが始まりである。そこから意識し始めた。
あとは極端で、たまに擦れ違う時に彼を見ていて何かこうドキドキしだした。それからは女子高生のように、会わない日でも変に思想が走りだして…まあ自分でも馬鹿な話だとはわかってはいる。

彼の部屋に友人が尋ねて来る事はあっても、異性が来る事がない。それがすごく嬉しい。しかしだからなんだという話であった。それで俺と彼が付き合えるわけでもないわけである。
話掛ける勇気もなかった。話掛けて何か出来る気がしない。友人、にすらなれるかどうかだ。年の差もある。
せめて彼も学生なら、気軽に話し掛けるのに。学生である自分が社会人であるただの隣人にどうコンタクトを取ればいいのだろうか。変な奴だと思われるのだけは避けたかった。



ある朝の事だ。
その日は快晴。珍しく早朝からのバイトが無かった為に6時にアラームを止めた。
大学へ向かう前に友人宅に行く予定があったので、6時30分頃に家を出る事にして軽い朝食を取る。
冷蔵庫に安いマグネットで貼られたカレンダーを見て、二重丸に不燃ゴミと書かれているのに気付いた。冷蔵庫の側面に貼られたこの地区のゴミ収集カレンダーを見ると、やはりどうにも今日は不燃ゴミの日らしい。
ふと以前部屋を掃除した時にいやに不燃ゴミが出たのを思い出した。確かその時に出せる日に不燃ゴミを出すぞと意気込んだのだったかと思いながら部屋の隅にあった地区指定の袋に入った不燃ゴミを片手に持ち、部屋を出る。

(…そういえば、サラリーマンならこの時間帯に家を出るんじゃないだろうか)

鍵をかけながら、ふ、となんでもない仕種を装って隣の部屋を見た。が、まああまりわからない。いつもはバイトがあって早いと5時か4時に、大学の講義の関係上遅くても10時に家を出るから彼と朝に擦れ違う事はまずなかった。
まあ、扉を見たってよくわからない。部屋の中で活動をしていないのだけは伝わっては来る。まだ寝てるか、もう部屋を出たかだろう。
少し損した気持ちで階段を下りてポストを覗き、それから少し歩いて見えて来るアパートのゴミ捨て場に何気なく目線を遣った。
そしてビクッと肩が跳ねる。人間ってのはどうにも予期せぬ事態に遭遇すると頭が真っ白になるようだ。
そこにはゴミを置く、俺が片思いをする隣人が居る。明るい場所で姿を見たのは初めてで挙動不審にも体が右往左往してしまて。どどどどうしようかと頭も右往左往する。

(いや待てよ、チャンスだろうチャンスだよな隣に立ってゴミを俺も置けば嫌でも挨拶する空気になるし、そしたら挨拶したって自然だ…というかなんならあっちから挨拶、してくれる…んじゃないか?よしこれだ、よしよし)

そうこう考えている内に彼はゴミを置いて、設置されたカラス避けのネットを被せようと行動を移していた。焦って歩みを早めて寄って、そして後ろに立って気付く。
彼の隣に立とうと思ったが安いアパートのゴミ捨て場はあまり広くなかった。隣に立つと窮屈であんまりにも不自然である。さあと血の気が引いた。
普通は彼がゴミを出した後に俺が出す、そういう流れである。わざわざ呼び止めて挨拶を…するだろうか…?昔から友人達以外とあまり仲良くしない為に、コミュニケーション能力があまりに低くよくわからない。

そしてまたそうこう考えている内に彼がネットを被せ終わってしまった。ああああ俺の馬鹿がぁぁぁと絶望した時、目ざとく俺はある事に気付いてしまう、いや気付く事に成功する。
今日は不燃ゴミの日だ。従ってゴミ捨て場は青い指定ゴミ袋ばかりになる筈。が、しかし彼が置いたらしい袋はどうにもオレンジ色、つまり可燃ゴミである。他にゴミ袋はないし今日が不燃ゴミの日だというのはカレンダーで確認済みなので俺の勘違いではないだろう。
よし、よし!最後のチャンスだ。唾を飲み込んで、息を吐いて吸って意気込んでぎゅうと掴んでいる不燃ゴミの袋を握りしめた。

「あの」

こ、声、裏返ってないだろうか。
冷や汗が垂れる。昔から無表情だとよく言われているから、多分顔には出てないと思う。だがそれで目付きが悪いとはよく言われるが…。

「はい?」

振り返った彼を見て俺は頭が真っ白になった。明るい場所で彼を見たのは初めてで、胸がばくばくと煩い。
ああ自分は結局同性愛者なのだなと痛感した。彼の顔がひどく好みである。ハレルヤ。
倒れそうになるのを踏ん張り、頭が真っ白な中頑張って言うべき言葉を思い出だす。瞬時にああそうだよ可燃ゴミと考え、口を開いた。

「今日は不燃ゴミの日だぞ」

そうそう。出す日間違ってますよお兄さん。

「……え?」

うわああキョトンとしてるよおお。どうしようどうしよう。

「可燃は明日だ」

あれつか待てよ。なんで俺タメ口きいてんだ?どう考えても初対面の年下にタメ口きかれたらいらつくよな。やばいどうしよう確実にしくじった。テンパり過ぎた。

「……あ、そうでしたっけ」

うわああ敬語を年上に使わせちまったし!最低じゃねぇか第一印象最低じゃねぇか!
ただでさえも目付き悪い無愛想とよく言われるのにざまあねぇよああもうダメだ。最低だ。暫く立ち直れる気がしねぇ…。

「ああ」

今更敬語も変かと要らないところで冷静に考えて、涙が出そうな気分のまま頷く。確認とばかりにゴミ捨て場に貼られた収集ゴミのカレンダーを見遣る彼の後ろ姿を、少し寂しく眺めた。タメ口きいてすんませんとタイミングがわからない。
ああとカレンダーを指差しながら見る彼を尻目にネットをめくり、自身の不燃ゴミの袋を置いて彼の置いた可燃ゴミを持ち上げる。せめて気の使えるフリだけはしようとそれを彼に渡したが、少し考えるとこの行動もなにか感じ悪いように思えた。もう、何をしても手遅れな気がする。

それからはもう頭がぐらぐらで自分自身何をしたか覚えてない。失礼な事はあまりしてないといいが。電車に揺られながら俯く。お近づきになりたかったのに、ああもう本番に弱いこの自分のチキン過ぎる性質をどうにかしたい。溜息を吐いて、瞼を強く閉じる。
…今日はあのアパートに帰りたくないと思った。






俺ことラモンは、その日生まれて初めて会社を早退したというか、させられた。脱力し過ぎて上司に真剣に心配されてしまったようである。正直仕事が手につかなかったでありがたい限りであった。帰りは何回も電車を乗り過ごしてしまって、昼前に早退したのにも関わらず帰宅は3時過ぎてからになってしまった。

まさか生まれて初めてあんなにも好きになった人が男だとは思わなかった。ショックである。だって大きな声では言えないが彼女…彼を、その、まあおかずにした事もあるくらいで…男だとは思わなかったのだ。夢にも思わなかった。

というのはまあ勿論だった。勿論ショックだった。
しかしそれより俺にとってショックな事があったわけである。もう本当にショックで、暫く立ち直れる気がしない。彼と擦れ違うかもしれない時間の帰宅でなくて本当に良かった。

(…男だってわかっても、そう大して好意が変わってない…っつのは…なんだ…)

布団に入ったままノートパソコンを立ち上げて、インターネットの検索ワードに文字を打ち込む。
【同性愛者】なかなかに変換がスムーズにいかなかった。検索をクリックして、しかしすぐにウインドウを閉じる。しまいにはノートパソコン自体を閉じて、顔を布団のなかに引きずり込んで唸った。
これから彼とどんな顔で擦れ違えば良いのだろうか。彼の部屋のある方向の壁を見て、また唸る。微笑んだ顔を思い出すと愛しくて堪らなくて、悲しくなった。
またパソコンを開いてインターネットの検索ワードに履歴で簡単に変換された【同性愛者】の文字を打ち込む。【同性愛者 どうしよう】要らん言葉をくっつけて少し気持ちを緩和させるが、やはり検索する勇気は出なかった。
検索ワードをリセットして、【駅 近い アパート】で検索をする。そうだ引っ越しをしよう。鬼柳さんにやましい気持ちを抱く前に…これ以上、抱く前に離れよう。検索をクリックしてサイトを一つずつクリックしていて、なんだかとても切なくなった。



*



下様よりいただきました、お互いに望みゼロだと思っているラモ→←京になります!
現パロでも原作沿いでも書きやすい方でと言っていただきましたので、現パロで書かせていただきました!
なんだかぐだぐだ長くて消化不良な内容になってしまいました…すいませんorz

今回リクエストに参加して下さり本当にありがとうございます!
それから嬉しいメッセージもありがとうございました!
これからもO.M.S.をよろしくお願いします!



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