Tell me.





瞬く星が空一杯に広がる景色は本の中の世界のようだった。サテライトでも、シティでも空気が汚れていて見えない光景だと遊星は無意識に少し伸ばした背筋を緩めながら、座る草の生い茂る地面に後ろ手を着きながら隣の鬼柳を見遣る。
偶然同じタイミングでこちらを見たらしい鬼柳の瞳とかちあってしまい、なんともなしに何かうれしく遊星にしては珍しく柔らかく微笑むと、鬼柳は照れ臭そうに笑った。

クラッシュタウンに鬼柳を助けに来て、二日目。試行錯誤はしたが、行動自体は順調に進み鬼柳はこうして新たな決意をもって遊星と笑い合っていた。
ジャック、クロウ達とも合流する事で元チームメイト同士久しぶりに会え、鬼柳の死にたがりな様子も沢山のものを見届けたいという思いから消えたようである。

一安心だ。遊星はやはり緩む頬をそのままに隣に座る鬼柳に寄った。クラッシュタウン、もといサティスファクションタウンから少し歩いた場所にあるこの場所は、鬼柳がよく来る場所らしい。山々が見え、前方は崖だ。草の生い茂る地面に座り見上げる夜空は、鉱山といえど辺りに自然ばかりしかないため空気が綺麗なのだろう、まるでプラネタリウムのように満天の星空がそこにあった。
それを見上げ、遊星は子供同士の楽しい秘密話でもするように笑いながら、地面に手を着いて寄った鬼柳の耳元で言う。

「鬼柳が生きていてくれるのが、本当に、嬉しいんだ」

こうして一緒に満天の星空を見上げている事が、たわいもない話をするのが、そうして笑い合ってまた馬鹿みたいにくだらない話をするのが。堪らなく嬉しかった。この嬉しさが鬼柳にどれだけしか伝わってくれていないのかを考えると、少しせつなくなるくらいだ。遊星は鬼柳の肩に額を置く。困ったように笑う息遣いを感じて、しかしそれもなぜか嬉しくて、堪らなくなって遊星は鬼柳の名前を呼んだ。

「どうした、遊星?眠いか?」

「好きだ」

「知ってるよ。何回言うつもりだっつの」

ぽんぽんと頭を撫でられ、子供相手にされるようなそれを多少不服に思いながら、遊星は鬼柳の横顔を見上げる。星空をぽけーっと見る鬼柳の横顔は、唇が半開きになっているのに間抜け面さなんて微塵もない。絵画みたいに綺麗だと思う。
遊星は鬼柳が好きだ。何度もそれを本人に伝えている為、呆れられてしまっているくらいだ。
遊星は鬼柳を救う為ならなんでもしたいと思っているし、実際今までなんでもしてきている。チームを組んでいた時も、手段は誤ってしまったが鬼柳が救われるのならと遊星は試行錯誤をしたし、ダークシグナーになってしまった鬼柳を救う時だって何が一番良いのかだけを考えた。
今回、クラッシュタウンに来た時もそうだ。罪に苛まれて死を求める彼に、遊星はただひたすら思いをぶつけた。
何か一つの強い意思がないと鬼柳は生きていけない人間なのだと、遊星は最近強く感じてきている。今の鬼柳は誰かに慕われている事で頼りにされている事で生きていると、生きる意味があるのだと実感している。だからこの場所に残るのは、当たり前だと思ってはいた。
鬼柳が二度の死と後悔を乗り越えて生きていてくれるのが嬉しい。それも誰かの為にと生き生きした顔で生きていく。嬉しくて仕方ないはずなのに、少しだけ寂しく思えた。鬼柳はこの町に残ってしまう。一応別れを惜しまずいられるように、ジャックもクロウもいないこの場所に遊星は来た。

「鬼柳」

「ん?おわっ」

遊星がぐいと後頭部に手を回して引き寄せると、鬼柳は油断していた為か呆気なく体を引っ張られてしまう。眼前に寄った鬼柳の顔をまじまじと見詰めて、遊星は眉根を下げた。
遊星と鬼柳は昔、一応、恋人同士であった。だが鬼柳の明け透けた性格上何かこう艶のない関係で、正直友達同士とそう代わり映えがなかったのだ。そしてそのままチームが解散し、関係はうやむやに終わってしまった。
遊星は鬼柳が堪らなく好きだ。キスをしていいならしたいし、綺麗な体に触れていいならしたいと思っている。だが好きという言葉を、今の鬼柳は昔の恋人なのか友達なのかがうやむやな時と同じように笑って受け取っていた。

「ちょ、ゆ、せ…んっ」

その事を考えれば考える程に広がる、言いようのない胸の中のくしゃくしゃした感情に任せ、遊星は眼前の鬼柳の唇に自分のものを押し付ける。少しだけ触れた後に離れると、遊星の胸の中のくしゃくしゃしたものは晴れないままであった。眼前の鬼柳が不服そうにしているのが原因だろうか。

「なにすんだよ、いきなり」

「好きだ」

「…だから知ってるって」

体制を崩したせいで乱れ、肩に掛かって胸元に落ちてしまった後ろ髪を鬼柳は整える。そうしながら遊星を見て唇を何か確認するように撫でた。
それが否定されているように見えて遊星は眉を潜める。やはり鬼柳は友人としてしか自分を見てないのだろうかと。

「鬼柳は、…」

「ん?」

「鬼柳は俺の事を、どう思っているんだ?」

聞いてしまってから遊星は気まずくなる。何を聞いているのだろうかと口元を押さえたが、鬼柳はといえば「お前何言ってんだ」と即答してみせた。笑いながら言うそれがあまりにあっさりとしていた為、遊星は胸が苦しくなる。鬼柳は誰かの支えになる事を好いていて、生き甲斐にすら感じている。誰かに慕われる事も尚更で、自分との恋人ごっこもそれの延長線なのだと思うと堪らなく悲しい。

「今も昔も変わらず好きだぜ?」

「……友人としてだろう?」

「だからお前さっきから何言ってんだよ」

鬼柳は口元を笑みにしながら遊星の額を突いた。人差し指でされるそれはなかなかのスピードがあり、がっと音がしてなかなか痛い。しかし遊星はそこを摩るでもなく堪えながら、不思議そうに鬼柳を見遣った。
痛そうなそこを遊星の代わりとばかりに撫でて遣り、それから頭を撫でる。

「ただの友人に好きだ、なんて何回も言われたら気持ち悪ィし、キスなんてさせねぇよ」

「…鬼柳、それは…」

「というか、俺からすればわかんないのはお前の方だ。なんだってまだ俺を好いてんだ?」

つまり、と遊星は答えを導き出そうと頭をフル回転させる。ぐるぐると普段賢い頭を必死に稼動させるそんな遊星を見て鬼柳は苦笑した。

「いい加減呆れられそうだと思ってたんだよ。勝手な事して二回もお前に迷惑かけて、挙げ句この町で死のうとして。なのにお前、まだ俺の事構ってくれるだろ?」

「それは、」

「俺の事が好きだからだろ。もう何回も聞いたから、いいぜわざわざ言わなくて」

遊星の頭に置いたままだった手を、鬼柳は遊星の肩に置く。不思議そうに遊星がその掌に目線を遣ったのを鬼柳は微笑ましそうに眺めた。

「俺さ、お前はわかってると思ってたから実は今すっげぇビックリしてんだよな」

「鬼柳」

「俺は今も昔も変わらずお前の事が大好きで大好きで、四六時中お前の事考えてるよ。むしろお前から嫌われてると思ってたくらいだ」

肩をぽんぽんと叩いて、鬼柳は体制を最初のように遊星から少し離して地面に手を着き座り込んで星空を見上げた。
遊星はというと突然の事に呆気を取られている。つまり、と結論を急いでいる筈なのだが混乱してしまい上手くいかない。いや答えは出ているのだが、突然過ぎて困っていた。
鬼柳は昔からずっと自分を友人としか見ていないと思っていた訳である。しかし違うのだとそう理解して、遊星はすぐさま鬼柳に抱き着いた。

「うわっ、ちょ、なっ…にすんだよ、遊星」

「鬼柳、好きだ」

「だから知ってるって言っ…んーっ」

遊星らしからぬ子供っぽい行動に心底驚いた鬼柳は大した抵抗も出来ず、抱き着かれた勢いで地面に体を倒してしまう。コートが汚れてしまうと気にしているのに気付いた遊星は、そのまま鬼柳の唇を奪った。色気のない抵抗の声が聞こえるなと思いつつ、文句ありげに動く唇を割開いて舌を滑り込ませる。
するとひくっと体を震わせた鬼柳は抵抗を止めて妙に体をすくませた。鬼柳の咥内は先程酒を少し飲んでいたからだろう、仄かにアルコールっぽい香りがする。遊星が上顎を舐め上げると鬼柳は体を震わせ瞼をぎゅうと閉じた。

「鬼柳、舌、出してくれ」

「ふ、ぁ…へ?」

唐突に唇を離し、しかし鼻と鼻とがすれすれの眼前で頬に手を添えて遊星が言うと、息が少し切れたらしい鬼柳が理解半分に遊星を見遣る。間抜けな返事をした為に咥内で臆病に縮こまっていた舌がそうでなくなった為、ちょうどいいと再び唇を合わせた。
再び半開きになった唇から咥内に舌を滑り込ませると、熱を持った鬼柳の舌と触れ合う。絡め合わせると体を震わせて艶のある吐息を漏らした。堪らなくなって遊星が鬼柳の体を抱き寄せて掻き抱く。
何回も角度を変え、息やらなんやらが苦しくなってきたらしい鬼柳が暫くすると顔を真っ赤にして遊星の胸を押し返してきた。仕方なく中断し、遊星は大丈夫かと鬼柳の顔を覗き込んで見る。
はあはあと息を荒くしながら呼吸を整えようとしている鬼柳は、髪が乱れていて顔が真っ赤だ。咥内に溜まったらしい二人分の唾液を躊躇いもなく嚥下し、先程抱き着かれ結果的に押し倒された際に乱れたらしいシャツを片手で直している。
遊星はそれを見て、堪らなくなって鬼柳の首筋に噛み付いた。煽られたのは勿論、両思いなのだと発覚した事への喜びが抑えられない。

「んっ、…ぁ…ちょ、待て、待て遊星」

「…鬼柳、愛してる」

「っ…ま、…それはちょっと、…ずるいっつの…」

鬼柳の馬鹿みたいに白い首筋に舌を這わし、そこに鬱血するように吸い付く。所謂キスマークを残して気が済んだ遊星は鬼柳の唇へ再び触れるだけのキスをした。

「いきなり愛してるとか、やめろ」

「?嫌だったか?」

「嫌だっつうか、その…こしょばゆいってい…うわっちょ、話してんだろまだ!」

「嫌じゃないならいいかと思ったんだが」

「だからっていきなり服の、なかに手っ…入れんな!」

コートの下、シャツの中にもぞもぞと入り込んだ遊星の皮のグローブに包まれた手を鬼柳はぐいぐいと押し返す。外気にさらされ寒いし、なによりいきなり過ぎた為に鬼柳は心底焦っていた。だが遊星と言えば形ばかりは注意を聞いていたが反省はない。
遊星は鬼柳が好きで好きで、今は両思いであった事がただただ嬉しかった。鬼柳が慌てて捲れたシャツを直す姿がすごく愛おしくて、表情が柔らかくなるくらいである。

「鬼柳、好きだ」

「……もう40回は聞いたよ。多分本当にそんくらい言ってるってお前」

「愛してる」

「……」

どうやら鬼柳は愛してるに弱いらしいと朴念仁の遊星も流石に理解してきた。もう一度、地面に寝そべり顔を反らしている鬼柳の耳元に愛してると囁くと、鬼柳は言葉にならない言葉を上げて体を震わせる。
それが堪らなく愛おしくて、遊星は鬼柳の鎖骨辺りに口付けて再びシャツの中に手を入れた。びくっと体を跳ねさせて、鬼柳は反らしていた顔を正面に向けて遊星を睨み上げる。

「…待てお前、何しようとしてんださっきから」

「………鬼柳に触れたいと思ったから、そのその通りにしているが…?」

「待て待て待て、待てよ…最終的にどうなんだこの行為は」

「どうもなにも」

「考えろよ、此処は外だからな?」

「そうだな」

遊星は心底キョトンとした顔をして見せ、鬼柳は逆に照れ臭くなって来て困惑している。遊星からすると鬼柳が何を言いたいのかよくわからないが、鬼柳からすれば遊星がこの行為がヒートアップするとどうなるのか考えていない事が何か気恥ずかしい。
ええと、と、鬼柳は考えてクソ真面目に見下ろしてくる遊星を気恥ずかしいまま見上げた。

「……いやその、なんだ…続けるんならベッドで、というか…」

「………………ああ、そういう事か」

言って遊星は理解したのかしていないのか、鬼柳の額にキスをする。訳がわからず困惑していると、遊星は鬼柳の身長の割に軽い体を抱き上げた。横抱きの形で抱えられ、いきなりの事に鬼柳は更に困惑する。

「ありがとう鬼柳」

「え、なに、が」

困惑しながら暴れるのもおかしいかと鬼柳は体を強張らせて、軽々と自分の体を抱える遊星を見上げた。確かに鬼柳は食が細く年齢身長の割にかなり軽いが、それでも子供みたいに軽い訳ではない。遊星の腕っ節の強さを再確認しつつ鬼柳は遊星の腕の中で大人しくするしかないわけである。

「ベッドでなら続けていいんだろう?」

「え、あ、いや……」

「ありがとう」

自分の言った意味合いを漸く理解した鬼柳はわたわたと顔を真っ赤にしながらうろたえた。遊星は鬼柳がこうして無意識に後から照れながらだろうと受け入れてくれたのが堪らなく嬉しく、鬼柳のその様も堪らなく愛しくて、唇を弧にする。

鬼柳がこの町に残ってしまう事実は変わらないが、だが自分の胸の中のくしゃくしゃしていた気分の悪い感覚が消えたのを嬉しく思いながら、遊星は抱き抱えた鬼柳の額に自分の額を置いた。

「俺がネオ童実野シティに帰っても、互いの時間が合う日を探して会おう」

「…………そうだな、なるべく会うように」

「鬼柳」

「ん?」

「…愛してる」

遊星が唐突に囁くと鬼柳は言葉をぶった切られたのを少し不服そうに、また恥ずかし気もなく放たれた歯の浮きそうな言葉に恥ずかしそうにしながら、遊星と見上げた遊星の先にある馬鹿みたいに綺麗な星空を見上げる。
そうしてから、本当に遊星は昔から一切変わらずえらい真っ直ぐだなと笑って、俺もだと呟いた。




*

CT編後の遊京、裏でも可というリクエストで書かせていただきました!
微裏くらいで書けたら…と思ったのですが、微裏にもなりきりませんでした…おおうせっかく裏でも可といただいたのに申し訳ないですorz

リクエストは勿論、お祝いのメッセージありがとうございました!
内容はあれですが感謝の気持ちを沢山込めて書かせていただきましたので、伝わって下さると嬉しいです…!

ではリクエストありがとうございました!
二周年及び七万打感謝感激でございます!どうかこれからもO.M.S.をよろしくお願いします!

では!orz



フリリク置場
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