林檎飴-novel- | ナノ

* 林 檎 飴 *
何気ない日常
ある日の朝。ニュース番組を見ながら朝食を摂る二人の青年。一人は髪が長く低い位置にポニーテールを作っている。もう一人は白銀の髪を持ち、顔に薄く傷跡がある。

「……いいですね水族館、綺麗で」
「なんだよ、いきなり」
「だってー、神田が忙しくてデートしてないじゃないですかー!」

ニュース番組には以前白イルカが子供を産み、お披露目の和やかなニュースが中継されている。他にも様々な水槽が映され思わずポツリと白銀の髪を持った青年が呟いた。
それに反応した神田、と呼ばれたポニーテールの青年は目の前で朝食を食べながらも頬を膨らませた彼にフッと笑う。

「食べながら膨らんでたらお前がフグみたいだぞモヤシ」
「モヤシじゃありません!アレンです!」
「フグは否定しねぇのか」

ムスッとしたアレンの姿が、水族館の水槽にいるフグのようでそれを指摘した。しかし、それよりも彼は昔から呼ばれる愛称に不満を漏らす。
犬猿の仲、と言われている二人だがこう見えて彼等は交際している。更に言えば同棲している。
彼らが犬猿の仲なのに付き合い、同棲するきっかけは数年前のこと―――……。

***

中学時代、二人は先輩後輩で出会った。何故かわからないが出くわせば言い合いからの殴り合いが勃発。高校生となっても同じ高校だったため、やはり殴り合い。
理由としては初めて会った際に、神田がアレンの容姿を見て【モヤシ】と呼んだのがきっかけだ。それから彼は仕返しというように【パッツン・バ神田】と呼んだ事で中学時代からの付き合いある仲間達は止める事すらなかった。
しかし、いざ神田の卒業が近付くと度々見かけたある光景。それは、彼が告白される現場だ。中学生時代もそうだったな、なんて思っていたアレンだが、急に胸が痛くなった。
なんだかんだ言い合いになりながらも、神田の隣には必ず自分がいた。その場所は不快でもなければ不愉快でもない。むしろ、居心地が良かった。
だが、もし彼が彼女を作れば、自分は隣に立つことはない。自分しか知らない表情や優しさなど自分じゃない誰かに向けられる。そう思えば思うほど胸が痛くなり、アレンは思わず身体を蹲るようしゃがみ込む。
感じたことのない痛み。まるでこれは――嫉妬。
そう理解すると、自分に納得した。避けれたはずなのに神田と同じ高校を選び、同じ部活を選んでいた。追いかけていた、無意識に。彼を……。
だが、神田は近々高校を卒業し大学に行くだろう。しかしアレンはまだ二年も高校生活がある上に、大学進学は難しいだろう。そうなれば、彼との繋がりは一切無くなる。
それに気付いた瞬間、ポロッと流れた涙。自分は神田に恋をしていたんだ、と今更気付いたのだ。

「何してんだモヤシ」
「っ……」

その時、告白されていたはずの神田が校舎に戻って来たのか声を掛けられた。いつもであればモヤシと言われた瞬間に言い返すのだが、今アレンは返すに返せなかった。
泣いている姿なんて、見られたくなかったのだ。

「おい、何……なんで、泣いてんだよ、お前」
「っ、なんで放っておいて、くれないんですか!」
「あ?見知った奴が人気のない場所で蹲ってたからだろうが」
「もう、なんで僕が……」

黙ったまま蹲った彼に不審に思い神田は無理矢理自分の方を向かせた。そんなアレンを見て神田は目を見開いた。潤んだ瞳、溢れた涙。それは、初めて目にする彼の姿だった。
泣き顔を見られ、神田に八つ当たりするよう言葉を吐きながら立ち上がり、彼から逃げようとする。男が男を好きだなんて知られたくなかった。
だが、アレンの手を掴んだ神田は、更に人気のない場所まで彼を引っ張っていく。逃がさない、と言わんばかりの力で。

「痛っ、何するんですかバ神田!」
「うるせぇ、泣くくらいなんかあったんだろ」
「……神田の、せいですよバカ!」
「は?……っ、何んだよ」

ズルズルと引っ張られていたアレンは、抵抗するように彼の手から逃れるよう振り解く。校内の廊下だというのに誰もいなく、話し声も聞こえない。まるで二人きりのように。
振り払う事で神田も足を止め、どこか心配したような口調で彼を見つめる。パチリと視線が合うと、アレンの身体は全身が熱くなりますます泣きたくなる。
止まらない気持ちに、八つ当たりの如く声を上げ次第に神田へと抱き着いた。それが意外だったのか、彼の口から漏れた戸惑ったような声。だが、突き放すわけでもなく神田はアレンを受け止めていた。

「……何がしたいんだ、お前」
「―――です」
「あ?」
「だからっ、神田が……神田が、好きなんですよ!悪いですか!?」

まさか受け止められるとも思わず、アレンはどこかヤケクソ、と言わんばかりに告白していた。彼からの言葉に目を見開いた神田だが少し考える。新手の嫌がらせか、と。
だがアレンは少し顔を上げ、目は潤み顔は赤く林檎のようになった顔。その表情から、冗談でも嫌がらせでもなく本気なのだ、と理解する。

「……ふっ、告白して来て逆ギレかよバカモヤシ」
「モヤシじゃありませっ……ッ!?」

思わず込み上げた笑いに声が漏れる。あまり笑みを零さない神田は、アレンの言葉に思い出したよう笑いながら愛称を呟く。それで呼ばれた事で彼は衝動的に顔を上げ、反論するのを待った。
その狙い通り恥ずかしかったのか、顔を逸らしていたアレンだが咄嗟に顔を上げていた。その瞬間、グッと腰を抱き寄せ少しカサついた唇に自分の唇を重ねる。
一瞬、触れるだけのキス。しかし、それがとても長く感じる。
突然のキスに口をパクパクさせながら、衝動的に手で抑えたアレンはますます頬が赤くなっていた。逃げようとした彼を壁に追いやり、所謂壁ドンで逃げれない体制を作ると、唇を手で覆ったアレンの手を掴む。
そして、隠された唇が露わになると再び唇を重ねる。今度は一瞬、ではなく深くハッキリと意識させるキスを。

「ンッ……!ふっ、ンンッ……はっ……!」
「鼻で、息しろよ……」
「ふっ、わかんなっ……ンンッ!」

触れるだけから一気に深いキスに、アレンは思わず戸惑う。なぜ彼がキスしているのか、なぜ彼とキスしているのか。頭がグルグルと混乱し、ただ必至に神田にしがみつきキスを受け入れていた。
やがて、ゆっくり離れる唇。恥ずかしく、でもどこか寂しく感じる。

「なんで、こんな……」
「あ?人が我慢してたっつーのにお前があんな事言うからだろ……」
「っ……それ、って……神田、も―――?」
「悪いかよ……」

恥ずかしそうにしながら、アレンは呟く。彼がこんな事するとは全く思っていなかった。そして、神田も同じ思いだと知り彼はギュッと抱き着いていた。
それから相変わらず学校では犬猿の仲だったが、密かに付き合い始め進学すると思っていた神田が、社会人スポーツに力を入れた企業に就職した。元々剣道が強く、全国優勝している彼は剣道界では有名で大学には行かず是非、と言われ就職に就いたのだ。
アレンは、と言えば何かやりたい事が見つからずにいたが就職より進学を選んでいた。神田の身体を支えたい、その気持ちから栄養士の資格を取るために。
そして、神田は専門学校に進学を決めたアレンに一緒に暮らさないか、と話今に至る。


栄養士の資格はまだ取れていないが、勉学を活かし毎日彼のために料理を作る。もちろん、忙しさのあまり作れない時もある。身体を繋げた翌日も、だ。
しかし、もうすぐ卒業を迎えアレンは資格の結果待ちであり、少々時間を持て余していた。だが、神田は大会前のため毎日のように稽古し土日祝さえない状態だ。

「……大会終わったら連れて行ってやるから、今は我慢しろ」
「むぅ、絶対ですよ?」
「お前が資格取れなかったら無しな?」
「えぇぇ!!」

何気ない朝の日常。あの日、あの時、自覚していなかったらこんな今はなかっただろう。二人でいるのが当たり前で、周りの目はあるものの好きな人と生きる幸せ。

「行ってらっしゃい、早く……帰って来てくださいね」
「あぁ……ゆっくり休んでろよ、昨日無理させたからな」
「っ、じ、自覚あるなら手加減してください!」
「さぁな……行ってくる」

今日もまた彼を玄関で送り出す。気恥ずかしいような、でも誰かを見送り見送られるのはやはり幸せだと感じる。
そして視線が重なると、どちらからともなくキスを交わした―――。


何気ない日常


ほのぼのした神アレが書きたかったんです

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