暑い。夕方とはいえ真夏の屋外を歩いてるからってだけじゃなくて、熱い。心臓は口からどころか胸を突き破るんじゃないかってくらい跳ねて、跳ねて、一時も落ち着かない。繋いだ右手が死ぬ程熱い。やばい俺手汗大丈夫かな。
 
チラリ、隣を伺うとばっちり目が合った。驚いたように目を見開いて、少しだけ目線をさ迷わせて、それから、顔を真っ赤にして笑った。その瞬間一際大きく心臓が高鳴って、思わず目を逸らしてしまった。――このまま心臓発作かなにかで死んでしまいそうだ。
 
 
「旭さん?大丈夫ですか?」
「あー、気にしないで…」
 
 
顔までせり上がった熱がどうしても降りていかない。男のくせにこんな、手を繋いだだけで顔を真っ赤にしてしまうなんて、恥ずかしくて見せられない。
 
そう。まだ俺たちは、手を繋ぐところまでなのだ。2人の初めてのキスなんだから雰囲気がいいところで思い出になるように、と考えていたらもう、いつしたらいいかタイミングが掴めなくなっていた。
 
 
「…旭さん、もしかして気分悪い…?」
「そ、んな事ないけど」
「そうですか?」
 
 
不安そうに見上げてくる顔が直視できない。きっとデキる奴はこういう時さりげなくするんだろうな、なんて想像して自分に嫌気がさした。
余裕があるような顔をして、脳内シミュレーションなんてもう何回しただろう。どんな表情をするんだろうとか、知られたら引かれそうなことばかり考えている。男なんて皆そんなものだろう。
とはいえ俺は、それが現実に生かされないタイプなんだけど。
 
 
「えい!」
「!?」
 
 
突然口元に当てていた手を引き離された。繋いだ手はそのまま、顔の赤みも少し収まった名字は悪戯が成功した子供みたいな顔をしている。
 
 
「ふふ、旭さん真っ赤じゃないですか、かーわいっ」
「かわ…!?」
 
 
恥ずかしいにも程がある。動揺する俺を見て、なぜか名字は嬉しそうだ。
 
 
「なんか、嬉しいです」
「え?」
「私ばっかりどきどきしてるのかなって思ってたから」
「…そんなこと、ある訳ないだろ」
 
 
隣にいるだけでこんなに、好きすぎて死にそうなのに。
よかった、と紡ぐその唇から俺が視線が離せないことになんて、きっと気付かないのだろう。
 
部活の帰り、夕日が照らす坂道。
――気が付いてみれば、これって最高のチャンスじゃないか?
 
 
「旭、さん?」
 
 
無意識だろう上目づかいに胸の奥が締め付けられる。俺だって一応男だから、もうこれ以上辛抱強くなんてなれない。思い切って身長差を埋めるように屈む。すると斜めがけにした鞄が重力に負けて、2人の間に割り込んでくる。直して再度屈むとまた落ちてくるから、仕方なく地面に置いた。
 
あぁもう、こうしてモタモタしてるの、本当に格好悪い。やっぱ止めておこうか、なんていつもの臆病が胸をよぎるけど、でも、ここで止めるなんて出来そうになかった。
 
がっつかないように意識してゆっくり顔を近付けると、ギュッと目をつむられた。そんな顔にもドキドキする。格好なんてもう、どうでもいい。
 
 
「…名字、」
 
 
すきだよ。
 
 
 
 
「あーっ、あの兄ちゃんと姉ちゃんチューしてる!!」
「うっわホントだ、えろーい!!」
「そういうのって家でやれって母ちゃん言ってたぞ!!」
 
「………」
「………」
 
 
2人の距離あと数ミリの、よりにもよってこのタイミング。
 
近所の小学生がひゅーひゅー言いながら自転車で駆け降りていった。そういえばここ通学路だったっけ。
 
 
「…っ!!え、っと、その、ごめんな」
 
 
流石に照れて体を離した。名字は俯いたまんま動かない。どうしよう、もしかして嫌だったんじゃ、
 
 
「何で謝るんですか」
「え?」
「私、すごく嬉しかったのに」
 
 
言うのとほぼ同時に襟元をぐっと引っ張られた。不意打ちに堪らずグラリと体が傾いだ、その瞬間。唇を何かが掠めていった。
 
パニックになる俺を横目に、やっぱり旭さんかわいい、と顔を真っ赤にして言う君の方がよっぽど可愛いしずるい。腕を引いて思いっきり抱き締めた。
 
もう男の面目なんて丸潰れだけど、せめて2回目は俺の方から。
 
 
 
 
 

 
 
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title by 夜風にまたがるニルバーナ




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