日向長編 | ナノ






昨日、真っ赤になって名字が帰った後。暫く呆然としていた俺は、それでも何か非常にとんでもない事が起きてしまったというのだけは理解した。

――えろいDVDを見ているところを幼馴染(しかも女子)に見られた。
こんな時どうすればいいかなんて事、俺が知る由もない。
 
先輩たちに押し付けられるように貸された≪ソレ≫を見ようと思ったのは、そもそも気紛れだった。名字を家に帰して、夕飯食べて風呂入って、寝るにはまだ早いけどする事もないから何となく入れてみた。それだけ。

再生を始めてすぐに後悔した。 
俺もまぁ男子だし、反応しないこともない。ないけど、見ていても爽快感というか、興奮というか…何かが駄目だった。ドキドキする心の裏側で変な罪悪感のようなものがむくむくと湧き上がり、≪ソレ≫の(多分)正しい使い方をするまでいかなかったのだ。そっか皆こういうの使ってんだ…皆に聞いたときはショックと興味が湧いたけど、実際使おうとしても、どうしてもそういう気分になれない。
 
仕方ない、と取り出そうとしたその時、名字が入ってきた。『正しい使い方』をしていなかった事が不幸中の幸いだって今なら思う。
 
 
こういう時ってどうすればいいの?なんて、考えても考えても答えは出ず、腹痛だけを抱えて朝になってしまった。謝る?こういう時って俺が謝るの、何て言って?それよりも俺、名字に話しかけられるのか…?
 
 
「――…オイ日向!!」
「へ?…うわっ!!」
 
 
ボールが顔面に当たりそうなところを、慌てて後ろに跳んで回避した。肘の少し上に当たったボールは鈍い音を上げて飛んでいく。その先は明らかにセッターとは逆方向だ。
やっちゃった、その6文字が頭の中をぐるぐる回る。前にもこんな事があったような気がする。恐る恐る視線をやると、眉根を寄せた影山がドス黒いオーラを発していた。ヤバい。俺、殺られる。いつも凶悪な言葉が飛び出す口がゆっくりと開かれる。
 
 
「お」
 
 
い、と言われかけた所で始業のチャイムが鳴った。た、助かった…!
 
 
「ごめんマジでごめん、じゃあ俺先行くから!!」
「オイ日向待て!!!」
 
 
背後から影山の怒号が飛んでくるがガン無視だ。ごめん、という言葉は心からの台詞だ。俺と名字のことは部活には関係ない。練習試合も近いのに集中し切れていないなんて駄目すぎなのも分かってる。あいつにやたら責められるのが苦手なだけだ。
放課後部活が始まったらすぐ謝りに行こう。で、ちゃんと部活に集中しよう。そう心に決めて教室へ急いだ。
 
 
 
-----
 
 
 
「――…え、今日名字休み、ですか?」
 
 
半ば呆然としながら聞くと、清水先輩はこくりと頷いて携帯の画面を見せてくれた。開かれていたのはメールの受信画面。差出人は名字。受信時刻はちょうど始業して数分後になっていた。
 
『すみません、ちょっと風邪を引いてしまいました。
 皆にうつすといけないので休みます。
 本当に大したことはないので明日は行けると思います。
 ご迷惑おかけします。』
 
文末には困り顔で汗を流す絵文字が付いていた。
 
嘘、でしょ。思わず体育館の床にへたり込んだ。もうそれこそ人生で一二を争うくらい緊張してきたトコでこのオチは、ない。でも、顔を合わせるのが明日になったことで腹痛が少し治まったのも事実だ。楽になったような、辛くなったような。呻きながら頭をガシガシと掻きむしって、深呼吸。勢いよく立ち上がって頬をパンと叩いた。
 
 
「…っしゃあ!」
 
 
今ここでグチャグチャ悩んでても仕方ない。部活が始まる前に名字に謝るというミッションは延期になったんだから、とにかく今はバレーに集中だ。もう朝みたいな失態はしない。
 
 
「そんだけ長いこと気合入れてんなら、もうミスしねーよな?」
「ゲッ、影山…!」
 
 
こんだけ間が開いたんだから怒りも薄れていると思ったのに、振り返ると朝別れた時くらい機嫌が悪そうな影山の姿。コイツただでさえ背ェ高いのに、こうして怒った時なんかすげえ迫力が増すんだよな。
 
 
「朝はちょっと考え事してただけだから、もう、しない!」
「ふーん、じゃあ久しぶりにやるか?レシーブ練習。死ぬ程難易度あげたやつ」
「う、ぐ…んなもん朝飯前だ!」
「そうかそうか、じゃあ思いっきりやってやるから吐くんじゃねえぞ」
「吐かねえし!!」
 
 
正直言うと、吐くほど胃に残ってない、という方が正しいけど。厭味ったらしく笑う影山に強気に笑い返して準備した。無事に全部返球出来たらお見舞いに行こうかな、なんて思いながら。
 
結果として、一応返しきった。返しきったけれど、やっぱりバカみたいに意地悪いところばかり狙ってくるボールに何回か音をあげそうになったのは、絶対誰にも言わない。
 
 
 
 



prev / next

[TOP]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -