「かげやまー、何飲んでるの」
「ヨーグルト。つか見りゃ分かんだろ」
 
 
ふうん、と淡々と呟くも、爛々と輝く目はパッケージから離れない。こりゃロックオンされたな。この後どうなるかなんて見え見えだ。
興味ないフリをしてことりと首を傾げて、そしていつもの台詞を言うのだろう。
 
 
「おいしい?」
「普通」
「じゃあ頂戴」
 
 
ほら出た。
 
 
「自分で買ってこいよ」
「やだめんどい。頂戴」
「…ん」
 
 
渋々差し出すと、受け取らずそのままストローにかぶりついた。思う存分飲んで漸く口を離して、ぺろりと唇を舐める。その真っ赤な舌が覗く様に対して、ゴポポ、とパック内に空気の戻る音がやたらと間抜けに聞こえた。
 
 
「美味しい」
「…そりゃ良かったな」
 
 
どうやら本当にお気に召したらしい。
 
 
「だめだなぁ影山は。美味しいなら美味しいって言ってくれないと」
「お前の好みなんか知らねえよ」
「私の好きなのはねー、こういうのとか、程々に甘いのとか、あと」
「知らねえっつってんだろ」
 
 
だから教えてあげてるのに、と不満げに足をバタつかせる名字を無視して俺もヨーグルトを啜る。さっきよりかなり軽くなってんだけどコイツどんだけ飲んでんだよ。いい加減遠慮という言葉を教えてやるべきか。
 
 
「…そんな物欲しそうな目したってやんねーぞ」
「何故ばれた」
 
 
そんな分かりやすい顔してよく言うな。
どうせやればまた遠慮なく飲むんだろう。もうあと数口で飲み切ってしまうのに人にやるような度量の広さは、生憎持ち合わせていない。わざと勢いよく飲み干した。喉が上下するたび「あ、あ、あぁ…」と悲しげな声が聞こえてきて、少しだけ気分がよかった。別に被虐趣味とか、そういうのではない。
 
 
「ほらよ、飲みたきゃ飲め」
「影山の鬼!悪魔!私のヨーグルト返せ!」
「元々お前のじゃねえよ!」
 
 
空パックをひっくり返して叩いたり綺麗に潰したりしても、ほとんど残っていなかったらしい。恨みがましい視線はスルーした。
 
 
「影山くん酷くない?私何か悪い事したー?」
「自分の胸に聞いてみろ」
「残念返事がない」
「あー控えめだもんな色んな意味、でっ!?」
 
 
スコーンといい音を立てて頭にパックが激突した。角が当たって地味に痛い。
 
 
「…今言っちゃいけないことを言ったね、影山」
「事実だろ」
「何だと!?あーもう怒った私怒った。ヨーグルト奢ってくれるまで直らないよこの機嫌は」
「そうか、じゃあ教室戻るか」
「聞けよ!!」
 
 
もういいわ!と叫んでコンクリートに寝転がった。大半の女子と同じく短く折られたスカートは足の大部分を露出させ、もしかしたらその奥までも。
こいつは自分が女だということをちゃんと認識しているのだろうか。そんなことは素知らぬ顔した名字はもぞもぞと体勢を整えて、そしてまた、首を傾げた。まるで幼稚園児がするみたいに。
 
 
「…かげやまー」
「あ?」
「私影山のこと好きなんだけど」
「………」
「影山は私の事嫌い?」
 
 
無言でうつ伏せに寝転んでいる頭を鷲掴み、引き寄せた。
 
こうやって。
私は何も知りませんみたいな顔してるところが。
俺が絶対に他の選択肢を選べないって分かる筈なのに分かってないところが。
そして何より、それを全部無意識にやっているところが、嫌いだ。
 
 
「―――…ん、む!」
「…ヨーグルト、これで我慢しろ」
 
 
お前がその声でねだるならお月さまだって取ってきたくなるだなんて、そんな絵本がどこかにあったな。
 
 
 
 
 

 
 
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みつあき様フリリク
「彼女の尻に敷かれる影山」



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