〜♪〜♪〜〜♪
 
(…またかよ)
 
布団から顔だけ机の上に向けた。さっきから数分おきに携帯が鳴って、止んで、また鳴って、というのが続いている。
壁の時計はもう11時半を過ぎたことを示している。
寝入っていたところにこれは、結構キツい。同年代の奴らはまだまだ起きている時間かもしれないが、自分は部活で相当消耗しているので家に帰ると必要最低限の事だけ済ませたら寝てしまうタイプの人間だった。
 
初め鳴った時は急用か?という気持ちもあったのだが、如何せんベッドから出るのは億劫だった。春休みだから宿題も何もないし、明日でいいだろうと無視を決め込む予定でいたのだが、流石にこの回数は尋常ではない。
断腸の思いで布団から出た。
 
 
「…はいもしもし」
『やっと出た!澤村遅い!』
 
 
やっと、ということは犯人はコイツか。
 
 
「お前か…また明日な」
『えっあっちょっと待っ』
 
 
容赦なく切ると間髪入れずにリダイヤルが返ってきた。…思わず出してしまった舌打ちは許してほしい。
 
 
『なに今の酷くない!?何回かけたと思ってるの!?』
「うるさい要件を言え」
『よ、要件?えーと話したかっただけなんだけ』
「そうか明日直接来いおやすみ」
『だから!ちょっと待ってってば!切るな!』
 
 
再度一方的に切ろうとしたらすごい勢いで止められた。大きすぎる声に耳がキーンとする。これで明日の朝練遅刻したらどうしてくれるんだ、コイツ。仕方なくもう一度耳を近付けると何やらブツブツ言っていた。
 
 
『電話しただけで怒られるなんて予想外なんですけど…』
「うるせえ俺は眠いんだよ」
『…なんかいつもとキャラ違わない?』
「こんな夜中に電話してくる奴に気使ってどうすんだよ」
『まぁそうかもだけどさー』
「で?ぐっすり寝てた俺を起こす程話したかった事って何だ?」
『言い回しが怖いよ澤村…』
 
 
黙って話を促すと、驚くほど弱々しい声がぽそり、耳元に落ちた。
 
 
『――…そんな大したことじゃ、ないんだけど』
「………」
『恋愛相談とか、頼めないかなーって』
「…は?」
 
 
恋愛相談。俺には明らかに似つかわしくない言葉だ。
 
 
『こっ…告白、しようと思ってるんだけど、そういう時なんて言ったらいいか分かんないし、』
 
 
そう言ってくる声は口ごもっていてしかも早口で聞き取りづらかったけど、真剣そのものだった。
 
 
「…そう、か」
『…ごめんね、こんな下んない事で起こしちゃって。やっぱり――』
「いいから続けろよ」
『――え?』
 
 
携帯を充電器から外してベッドに座った。長丁場になるのは覚悟の上だ。
 
 
「出来る限り話は聞いてやるから」
 
 
自分が役に立つとも思えないが。そう感じながら告げると「やっぱり澤村キャラ違う」と変に弾んだ声。――今すぐ切ってやろうかと一瞬だけ思った。
 
 
 
 
名字が言うには、相手は同じ学年の運動部の奴らしい。高校で席が近くなって仲良くなったとか、だから試合の応援に行って告白するとか、何とか。名前は言いたくないとの一点張りだった。
特徴を聞けば、
『大きい』
それじゃ分からねえよ、ともう一度聞けば、
 
『背も大きいけど何ていうか…全体的に大きい』
『表向き優しいんだけど、結構ズバズバ言う』
『あっ、友達の1人にだけ厳しく接してる。あれが素なのかなってたまに思う』
 
…いいか?そんな奴。
聞く限りあまり性格がいいとは思えない。
 
 
「誰だ?岩倉とか?」
『岩倉くんって誰?』
「サッカー部の。まぁ知らないなら違うか」
 
 
サッカー、バスケ、野球、陸上、テニス、など思いつく限り聞いてみたがどれもハズレ。
 
 
「…まさか旭とかスガだったりしないよな」
 
 
旭は体は大きいが性格が合わなすぎるし、スガは飛び抜けて背が高いという訳ではない。だから除外していたのだが当たってみない事には分からない。恐る恐る聞いてみると『全然違うし!』と慌てた声が返ってきた。
 
 
『…澤村の全然、全く知らない人だよ』
「知らないって、俺ら去年同じクラスだったろ」
『選択授業とかあるでしょ!』
「…まぁ、確かに」
 
 
芸術科目とかなら全く分からない。
 
 
『…とにかく、私が聞きたいのは何て言ったらいいかって事なの!』
「どれ位親しいのかにもよるな」
『…仲はいいと思う。自惚れかもだけど』
「…今そいつ彼女いないのか?」
 
 
そう聞くと、名字は急に沈黙した。
 
 
『…いない、と、思う』
「”思う”ねぇ」
『いつも部活忙しそうだし。――それに彼女がいてもいいの』
 
 
気持ちを伝えられるだけで十分だ。
そこまで言わしめる相手は幸せ者だなと素直に思った。
俺もそこそこ名字とつるんできた筈なのに、全く気付かなかったという事実は歯痒いけれど。
 
 
「そんなに好きならそのままズバッと言えばいいだろ」
『…だって、ズバッと断られたら辛いじゃん』
「まぁ、そうかもしんねぇけど」
『……澤村はそういう経験、ないの?』
「ねえよ。そもそも中学の時一瞬付き合ったか?って位だし」
 
 
しかも周りに囃し立てられての事だった。高校が別になって自然消滅して、それっきりだ。
 
 
「だから正直使えないぞ、俺」
『ううん、そんな事ない!』
「…そうか?」
『うん。――澤村にしか話せないもん、こういうの』
「………」
 
 
名字があまりにも嬉しそうな声を出すから。
何だよ友達いないのか?なんてからかってやろうと思っていたのに、何も言えない。
 
 
『その…さ、澤村なら、何て言われたい?』
「俺?」
『うん!』
「…俺、なら」
 
 
反射的に試合の後、赤い顔をした名字にタオルを差し出されるなんてベタな場面を想像してしまった。
(なんで名字に言われるとこ想像してんだよ)
頭を振ってその妄想を吹き飛ばす。
 
 
「…普通に”好きです”とか”付き合って下さい”ってのがいいと思うけど」
 
 
そう告げると唾を呑む音の後、少し強張った様子で『そっか、』と返ってきた。
 
 
「なんで緊張してんだよ」
『え、してる?』
「ように聞こえる」
『全然してないけど…あ、』
「何だ?」
『日付、変わっちゃうね』
 
 
言われて時計を見ると、丁度11時59分を指していた。
もうそろそろ寝ないと明日の部活に差し障る。
 
 
『そろそろ寝る?』
「もういいのか?」
『うん。聞きたいことは聞けたから』
 
 
そう言う名字は、吹っ切れたように清々しかった。
 
 
『ねー澤村さ、今日何月何日だったか知ってる?』
「はぁ?…4月1日だろ、確か」
『そうそう。で、もうすぐ4月2日』
「…それがどうかしたのか?」
『今日私は、ひとつ嘘を付きました。それは何でしょう』
 
 
何、と言われても。
意味が分からなくて沈黙していると、楽しそうな、でもすこし焦れたような声。
 
 
『澤村が知らない人ってところ』
「…そうかよ」
 
 
だからどうしたと言うんだ。…まさかさっき言ってた中に正解がいたのか?
本当に旭だったらどうしよう、と思っていると、時計の3つの針が頂点で交わった。
なぜか電話の向こう側で深呼吸しているのが聞こえる。
 
 
『あのね、澤村』
「ん?」
 
 
『好きです。付き合ってください』
 
 
「―――
 ――…は?」
 
 
『明後日の練習試合、応援に行くから頑張って。それじゃ!!』
 
 
ブツン。
 
 
回線と一緒に、俺の思考回路も、切れた。
 
 
 
 
 

You’re
kidding
me !
(No kidding!)
 
(嘘、だろ?)
(本気だよ!)

 
 
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エイプリルフール記念



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