「あのさ、機嫌直して、もらえないかな」
「………」
「乱暴しようなんて考えてないから。ちょっと…暫く外の人と話してなかったから、マナーとかぐちゃぐちゃになっちゃってたけど」
「………」
「食べないと、死んじゃうよ?」
「――貴方と同じテーブルに付くなら、死んだ方がマシよ」
沈黙。息を飲む音。数瞬の後、扉の向こうで小さく言い争う声。
きっとあの可愛らしい召使さんたちだろう。あぁ、これで嫌われちゃったな。心がズキリ、痛みを訴える。
酷いことを言っているのは自覚している。けれど仕方ないのだ。本当に、心から、そう思っているのだから。自分の心に嘘はつけない。
「てめェ、旭さんに何を…!」
「ノヤ、いいから!
…ごめんね、そうだよね。気持ちを汲んであげられなくて、ごめん」
ズキリ。
「この城では召使たちが色んな姿をしてるし、家具が動いたりもするけど――俺みたいなのは、他にいないから。安心して寛いでほしい」
ズキン、ズキン
(そんなに悲しそうな声しないでよ)
胸がどんどん痛みを増していく。
きっと扉の向こうで、あの巨体を縮こまらせているのだろう。焦げ茶色の毛皮に包まれた、ライオンのような体躯。家から着てきたボロ着の胸元をギュッと掴んだ。お父さん元気かな。私が居なくなって寂しくないかな。
「お腹が空いたら外に声をかけてみて。キッチンが腕を奮ってくれると思う。
じゃあ、俺は行くね」
お休みなさい、いい夢を。
その言葉の後遠ざかる足音が聞こえた。どうやら本当に行ってしまったらしい。
強ばっていた身体から力が抜けて、扉にもたれ掛かる。その扉の下の方が控えめにノックされた。
「ええと、まだ聞いてるかな。旭の言った通りだから気軽に声をかけてね。…それとあいつ、そんなに悪い奴じゃないと思うよ」
そんな事分かってる。
分かってるけど――認める訳にはいかない。
(私は、家に帰るんだ)
私がお父さんを支えるんだ。どうにかして、すぐにでも此処を出なきゃ。
だから。
(この城は、私から自由を奪ってる)
この城の人に思い入れを持ってはいけない。ましてや仲良くなるなんて、好きになるなんて、そんな、
(あの人は――…化物、だ)
心が、銃弾を撃ち込まれたように傷んだ。
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映画初めて見たけど面白かったので!野獣いかしきれん!