ライオンは獲物を仕留めるとき、食べたいと思って狩る訳ではないらしい。自分より小さな動物をかわいいかわいいと追い回しているうちにうっかり殺してしまうのだ、と聞いた時、ものすごく衝撃を受けたのを覚えている。それが本当なのかガセなのか分からないけど、なんて俺に似ているのだろう、と思った。いつからか俺の中では大事にしたいものと食べてしまいたいものがニアリーイコールで結ばれるようになってしまったのだ。かわいければかわいいほど、こいしければこいしいほど腹が減る。唾が湧きだす。食べたく、なる。本当に食材として食べたい訳じゃないから、カニバリズムとはまた違うけれど。
 
 
「スガー」
「ん、どうした?」
「今日の私の服、変?」
 
 
言ってひらっと身を翻す。最近の流行りらしいふわふわのスカートが風を含んで波打った。思わずごくり、唾を呑みこむ。
 
 
「変なんてそんな!凄く似合ってると思う」
「本当?」
「うん」
「よかった。だってさっきからスガ、私のスカートばっかり見てるみたいだったから」
「…そう?気のせいじゃない?」
 
(しまった、これからはもっと器用にやらなきゃ)
 

だって普通の目線では刺激が強すぎるんだ。柔らかそうな髪とか、白い首筋とか、薄い肩だとか、そんな危険物ばかりを視界に入れていたらどうなるか分からない。付き合い始めた頃はもっと自制が効くレベルだったのに。時が過ぎどんどん近づいて、どんどんその余裕は消えていった。すきになればすきになるほど、だ。
 
 
「映画見る前にお昼食べようよ」
「そうだね、授業中の誰かみたいにお腹鳴ったら恥ずかしいし」
「あーーーー聞こえなーーーい」
 
 
当たり前のように組まれた腕のやわらかさを、俺はもうしっている。浮き出るあばらも、ゆるいカーブを描く足も全部、この歯を突き立ててかぶりつけたら、どんなにか幸せだろう。
――上映中に腹が減って困るのは、俺のほうだ。
 
 
「お昼何食べようね」
「んー、俺あんまり金ないんだよね…」
「じゃあ、
私を食べる?」
「―――――…え、」
「あはは、なんてね!冗談冗談」
 
 
心の内を読まれたのかと思ったけれど、するっと腕を解いて俺の目の前に歩み出るその表情は悪ふざけ以上の色を含んではいなくて、ほっとした。でも同時に、ほんの少しだけ残念だった。
 
 
「でもね、スガにだったら私、いいよ」
「…本当に?」
「だってスガなら残さなそうだし」
 
 
あぁ、おいしく食べてね、と茶化していう唇は、なんて甘くておいしそうなんだろう!
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