一年前の冬のある日まで私はただの大学生で、友達と遠くに離れて住む家族を支えに生きている、本当に普通の女の子だった。 それが突然理解のできない理由でテロリズムに巻き込まれ、私の人生は狂わされてしまう。
あの日、私は軋む化け物の鳴き声を聞くと、飛び出すように屋外へと逃げ出し偶然化け物に食われる友達を見付け、そして私は彼を刺し殺した。
私はあの状況に覚えがあったから、咄嗟にやるべきことを把握し、そうしてやるべき行動をとった。 ネットや文献、そして噂で聞いたことがあるだけだった、過去に地図から消えた街の、ある悪夢の日ように人は化け物に食われ、何かを殺したときから、多分私はおかしくなっているんだよ。 二十数年間積み重ねていったた普通の女の子のシェーナ・リンクスは、あの日あの時化け物になった友達を刺し殺したときから、骨と肉をナイフで貫く感覚を知ったときからただの気狂いになったの。 クリス隊長には本当に感謝してる。彼がいないと私はき死んでしまうから。死にたくないのに、首を吊ってでも死んでしまいたくなって本当に死んじゃうよ。 ピアーズ、ピアーズ。ごめんなさい、君に朝からこんな話をしてしまって。少し、あの日の夢を見てね。 君があまりにも優しくて強い目をしているから、つい、弱音を吐いちゃった。ごめんね。ごめんね」
「謝らなくて良い、シェーナ。 アンタが感じたこと思ったことは全部溜め込む必要は無いんだ。 シェーナ、アンタが隊長を慕っているのは分かる、それがアンタが生きる理由のために利用しているってことも。 だけど慕いはしてもすがり付くことはしない。 アンタはそのことが苦しいんだろう? 隊長もたくさんのことを抱えてるからな、アンタはその負担を増やしたくない、けどそうしていって溜め込みすぎて溜め込みすぎて、今は陰鬱になったんだろうな。
なあ、別に隊長以外を頼っても良いんだぜ? 隊長はアンタを掬い上げた張本人かもしれないけど、救うための直接的な行動を取っている訳じゃない。 あの人は優しいけど鋭いけど少し女性の感情に関しては汲み取れないとこがあるからな」
そこでピアーズは言葉を切ると、私の体に腕を回し自分の元へ引き寄せ、そっと力を込めて抱き締めた。 彼の素肌に直接触れ、朝の微睡みの中、少しずつ溶けてゆく。 丁度彼の胸の辺りに私の頭は来ていて、彼の心臓が動く音がゆっくり体に溶け込んでゆくように感じるのだ。
「あたたかい」
「だろう?」
「こんな面倒な女にそんなこと言ったら駄目だよ」
「それでも俺たちは家族だ」
「ピアーズ、隊長を」
「言わなくて良い。大丈夫、アンタも誰も、皆守る」
隊長を死なせないでと言おうとした私の声は、優しくて強い彼に遮られてしまった。けど、それは気の悪くなるようなものではなくて、ああ、私は彼に頼っても良いのかもしれないと溶けてゆく頭でぼんやりと考えた。
「もし最悪のことが起きたら、責任とってね」
胸に宛てていた耳を外し、私は彼の腕の中で彼を見上げた。 私を見下ろす彼の目は、やっぱり優しくて強いものだった。
「そんなことにはさせないさ」
それから私たちはどちらからともなく静かに口を寄せ合った。 それには心のあるキスというより、ある種形式のようなキスだったのだが、今のキスが初めて異性としたキスだと伝えると、彼は顔を赤く染め小さくごめんと呟いた。
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