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「円堂先輩、今何してるんだろー。」


一つ上の先輩たちが、今日、この学校から卒業していった。
ずっと憧れで、素敵で、大好きな先輩たちがあたり前の様に居たのに、明日から居ないという事実は少し胸にくるものだった。

卒業証書を火来先生から受け取った先輩たちは涙ぐみながら、この無駄に広い体育館を出て行ったのはつい先ほどのこと。今ごろ先輩たちは各々の教室で、若しくは部室の前に集まって、最後の別れを惜しんでいるのだろう。

「そんなこと言ってないで、片付けするよー!」

さっきまでボロボロと泣いていた春奈はもうすっかりと涙のあとをなくし、座っていたパイプ椅子からすたっと立ち上がった。

「そんなこと行ったって〜傷心中の親友の話くらい聞きなさいよねー。」
「なまえの場合先輩たちののろけ話になるから絶対いや!」

ほらほら立って!と春奈はわたしの腕をぐいっと引っ張り無理矢理立ち上がらせた。

「もうー酷いなあー。」なんて言いながらわたしは凝ってしまった肩をぐるぐると腕を回すことで解す。
未だかすかに聴こえる、卒業式の定番ソングと、人の喧騒が、耳につく。
去年はあった、昨日まであった先輩の、円堂先輩の、声はきこえない。
それが無償に寂しくて切なくて胸が痛む。

当たり前が無くなるって、こんなにつらいことなのかあ。

当たり前の様に居た円堂先輩、当たり前の様に笑っていた円堂先輩、当たり前の様に聞こえる円堂先輩の、あの声。

明日から、無いのだ。円堂先輩だけではない。染岡先輩の怒声も、真一先輩の中途半端な泣き言も、秋さんの優しい応援も、みんなみんな、無くなってしまうのだ。

春奈はいつの間にかわたしをすっぽかして、片付けを始めたようだ。
体育館から見えた外の景色には、遠目だが円堂先輩の姿が見えた。

「裏門…に……?」

別に帰るわけでは無いようだ。手ぶらで円堂先輩はどこかへ向かって走っている。

――、もしかして。


円堂先輩の行く先がなんとなく分かって、わたしは内心ほくそ笑んだ。

隣にはお小言を言う春奈は居ない。体育館の中では片付けの為に人が集まりに集まって、わたし一人が今更どこかに行っても分からないだろう。

「チャンスだ。」

円堂先輩に、告白する。最後の。

こっそりと体育館を抜け出し、喧騒から遠ざかりながらかなり前を走る円堂先輩を睨み付け、わたしは上靴のまま地面を強く、強く蹴りあげた。







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