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 「逝かないで。」とは言えなかった。
優しく、宝物を触るように私の頬を撫でる彼に、私は目を伏せることしか出来なくて。

「ギジリ様。」

死を望んだ彼は、あと半刻もしないうちに逝ってしまうのだろうか。
このままずっと彼と私、二人で共に居たい。
だけれども、それは叶わないのだろう。元々、独りで逝こうとした彼に無理矢理死を見届けさせて欲しいと頼んで、今ここに居るのだから。貴方の死を止めない、と言う約束で。
だからこそ逝かないでとも一緒に逝きたいとも、言えなかった。
ただ、優しい彼に甘えるように寄り添うだけ。
ただ、優しい彼の顏を見つめるだけ。

ここには一つ。静かな世界が在るだけだ。





 彼にとって孤独とは即ち、美であった。

幼い頃より、人一倍人間と言うものに強い関心を抱いていた彼は、人とはいったい、何を考え、何を信じ、生きているのだろう、と、人の心について想い続けていた。
彼は見たこともない人の創る世界を想い、そうしていつも、側に居た私に輝かしい顏で、世界を語りかけてきたのだ。
私が聞いた彼の世界は、純粋で濁りのない、まるで夢の国だったから、きっとその時の彼は人間の暗いところを知らなかった、純粋無垢という言葉が似合う綺麗な少年だったのだろう。

 その彼がいつしか人を忌み嫌うようになった。
人々が彼を忌み嫌うようになったから、幼く、綺麗な彼は、人間から与えられた汚いものを受け取り、元よりあった彼の世界とは違うこの世に裏切りを感じ失望したのだ。
以来彼は、あの輝かしい顏で何を語ることなく、あんなにも愛していた世界を憎んだ後に自ら孤独を望み、それを愛するようになった。
孤独こそが絶対で、裏切らないもの。
きっと彼が人間に触れた時から彼にとって、美と孤独は繋がることになったのだろう。



 伏せていた目を開き、再び彼を見つめる。
幼い頃の面影を残したままの未だ幼い青年が一人。
長く生き過ぎた。と後悔したように呟いたのはいつの事だっただろうか。
二十に満ちた程度の齢のまま、百年余りの時を経た、愛しい人。
私より長く生きることは出来ないと理解しながらも、禁忌を犯し常人より私と長く共に居た、居てくれた、愛しい人。

「ギジリ様。」

もう一度、もう一度だけ。と貴方の名を紡ぐ私を、どうか恨まないで下さい。
愛しい愛しい人。どうかこのまま時が止まりますように。
そう願ったはずなのに、私の頬に触れていた、彼の熱が消えた。
彼は穏やかな笑みを携えて、






 ああ、彼は寂しかったのだろうか。それともただ、死にたかっただけなのだろうか。彼の、ギジリ様の、冷たく硬くなってしまった身体に触れ、その答えはもう誰も知り得ないのだと悟る。






喪に服し、世界は消え逝く


多分女の子は妖怪みたいな。



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テーマ「人外ファンタジー」
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