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徳川で苗字固定。全部なんちゃってで済ませて下さい。







 わたしの名前、というか苗字は恐れ多い事に徳川と言う。
 苗字が徳川さんだから、歴史の授業を受けるときなんかにクラスのお調子者や先生が「征夷大将軍ー!」とか「水戸の御老公様ー!」とか、わたしの方を向いて叫んだりするもんだからたまったものじゃないけどなんやかんやで気に入ってたりする。
第一「征夷大将軍ー!」とかなんとか言われてもわたしは幕府を開いたあの徳川家とは一切の関係が無く、わたしの何代か前の祖先様が明治初期の四民平等に肖って、戸籍制定時に徳川の名前を頂戴しただけなのだ。
 授業中に突然名前を呼ばれて嫌じゃないのか、と聞かれたことがあったのだがこの苗字でからかわれたりして嫌だなあ、と思うことはあっても先に言ったとおり気に入ってる名前だったりする。なんというか、しっくり来る感じで。
それに、珍しいことに昨春からお世話になっている高校では先輩や後輩、同級生なんかに伊達政宗やら毛利元就やら石田三成やら、どこかで聞いたことのある武将と同姓同名の人がゴロゴロと居て、今更名字が徳川くらいでそれがどうした!と軽く流せる様にまでなってしまったのだ。
 そんなこんなで産まれて此の方徳川を名乗ってるわたしは去年無事に高校に進学して、なぜかは分からないが一部の人に権現のお嫁さんと言われるようになってしまった。その繋がりか何かか、高校に入って出会ったクラスメイトの石田三成くんに「イエヤスゥゥウ!!!早く来い!!さもなくば貴様の嫁を残滅する!!!!」と毎朝言われるようになって早一年、つまるところ今年で花の女子高生ライフ二年目を迎えるのだ。



 散った桜が絨毯の様に校庭に敷き詰められている四月の始め、相も変わらず三成くんに「イエヤスゥゥウ!!貴様の嫁を〜。」なんて言われるであろう新年度。わたしはなんとタイミングの悪いことか、高熱を出してしまったのだ。
38度7分と表示された体温計を見て、「こりゃ学校休むしかねーな。」と新学年初日から休むことを億劫に思いながら、すでに仕事に出ていた母さんに熱があるから学校を休むことを伝え、そのまま学校にもそれを伝え、痛む頭を押さえながらベッドに沈みこむ。
そうして大凡一時間後、突然携帯の着信音がガンガンなりだした。お気に入りのアーティストの声が静かな部屋に響いて、ちょっと、いや、かなり五月蝿い。
「うるせえなぁ」と毒づきながら渋々「もしもしぃ?」と自分で驚くほど不機嫌な声を出して電話を取ってみれば、なんと、ひとつ上の前田先輩からの電話だった。

「もしもし!?なまえちゃん!今どこに居るんだい!!?」
前田先輩は今のわたしのテンションとは正反対で、まるでお祭りの時のようなテンションで開口一番叫ぶものだから、あまりの五月蝿さに頭がぶるりと震えた。
ただでさえ不機嫌だったわたしは思わず携帯を耳から離し、マイクに向かってできる限りの大声で「家に居るんですけど!熱あるから叫ばないで下さいよ!頭痛い!!」と叫び返した。
「ん、うおぉー……、なまえちゃん。あんまり電話越しに叫ばないでくれよ……。」
きっと耳を押さえているであろう先輩に、お前が言うなよ、お前が。とコメントしたかったのだが、いかんせん頭が痛いもんでこれ以上先輩と話したくないのが本音だ。先輩には悪いが、早いところ本題に移って早々に電話を切りたい。
「それで、先輩どうしました?さっきも言ったけどわたし、熱出してぶっ倒れてるンスよ。あんま長いこと話したくないんでちゃちゃっと本題に移りましょう。」
「ん?あぁ、というかなまえちゃん熱が出たのか……。そうか……。なら二、三日は学校を休むのかい?」
「んまー、そうなるッスねえ。」
「そうか!なら良いんだ!!うんうん。いやあ、今年度は楽しくなるなあ!」
わたしに電話を掛けてきといた癖に自己完結した前田先輩は「それじゃあな!なまえちゃん!あぁ〜なまえちゃんが学校に来るのが楽しみだよ!お大事に!!」と一方的に電話を切ってしまった。

今のなんだったんだ……。通話時間二分ちょいと表示されている携帯のディスプレイを見つめながらわたしは溜め息を吐いた。わたしが学校に来るのが楽しみって、それ、何かのフラグたってないッスか前田先輩……。主にわたしの不憫フラグとか……。












「イッエッヤッスゥゥウウウウウウウウウウ!!!!!!!」
熱も下がったことだしひょこひょこ学校に出てきた水曜日。もう聞き慣れてしまった三成くんのイエヤスゥゥウウの叫び声をBGMにわたしは「どうせ貴様の嫁が〜」って続くんだろ〜知ってる知ってる。と一人頷きながら教室のドアを開いて。──開いて固まった。

「あ、朝から濃厚なラブシーンだね……。お早う……。三成くん……。」

 精神的にきついものを見てしまった気がする。言葉にするのも憚れる気分だ。なんというか、教室で中々良いガタイをしている見知らぬ男の子(転校生?)を組み敷く三成くんと目があってしまったのだ。
「あ、なまえ……。」
ピタリ。わたしと目があったことで男の子の両手首を床に押さえつけている三成くんが固まる。すると、彼の顔はみるみる赤くなっていって「ち、ちがうんだ!!コイツがイエヤスで!!……イエヤスゥウウウウ貴様のせいでなまえに変な誤解を〜。」と途中から聞き取れなくなる謎の言葉を叫びだした。ほうほう、三成くんが叫んだ言葉を聞き取れたものを聞く限り、この転校生っぽい三成くんに組み敷かれてる男の子はイエヤスくんと言うのか。もしかしなくともこれは苗字が徳川くんな展開じゃあないだろうか。
イエヤスくんは顔を真っ赤にさせて怒っている(八つ当たりしている)三成くんを他所に「ん!?なまえ!!?」とわたしの名前を呼んで少しだけ目を輝かせた。
え、なになにイエヤスくんってもしかしてわたしの事を知ってるの?
「おぉ!!やっぱりなまえだ!久しぶりだな、ワシは元気だから心配いらんぞ!」
わたしがそう疑問に思っている内に、まあなんということでしょう。疑問に思われている当のイエヤスくんは、顔を真っ赤にさせて未だ叫び続ける三成くんを笑顔で蹴り上げたのです。

グフッと息を詰まらせた三成くんは叫ぶことを止め、今は股間の辺りを押さえながら悶えている。うっわー……。こりゃあ、いってえわな……。

まあ、三成くんが股間を押さえてるイコールイエヤスくんの両手首は解放された訳でして。イエヤスくんは器用にも、悶える三成くんの下からするりと脱け出し、わたしの所へ小走りでやって来た。

(小走りが似合うのは可愛い女の子だけだよ。イエヤスくん……。)

もともとわたし達が居た所は教卓と入り口という事もあってか、距離は精々二メートル位だろう。わたしが若干遠い目でイエヤスくんを見つめていたら二秒程でこちらに来やがった。チクショウ!なんで初対面の男の子とお花飛ばされながら向き合わなきゃなんねーの!?
しかも、今登校時刻真っ盛りだよね!なんで誰もこのドア通ンねぇの!?


とにかくイエヤスくんと目をあわせたくなくてザッと教室内を見渡す。


────ハイ。予想してました。誰も目をあわせてくれません。チックショウ!!ドン引かれてるじゃん!!腫れ物には触れるなってか!わたしはニキビか何かか!


「ん?なまえどうしたんだ?いつもなら家康さま〜とかなんとか言ってワシの胸に飛び込んで来るというのに……。あぁ、そうか教室に人が居るからか!気にせんでも良いぞ後でワシが皆忘れさせてやるからな!殴って。」

「イヤあんたこっぇえええ!!殴ってって、ちょっ、おま。笑いながら言わないでよ!というかあんたとわたし、初対面ッスからね!!」


ピタリ。わたしの言葉に先程の三成くんよろしくイエヤスくんはアルカイックスマイルのまま固まった。

「な、なら、もしかしなくてもワシの名前も知らない……のか……?」

でも状況の飲み込みが早いのか、固まったのは一瞬で間髪入れずに言葉を発する。

「イエヤスくんって所までしか知らねえッス。」

「そんなっ、あの愛し合った夜は何だったというんだ!」

「気持ちわりぃよ。」

「そうか……なまえはおぼえてないのか……。

よし、今までのことは忘れてくれ。ワシは徳川家康。今年からこの高校にお世話になる。よろしくな!えっと……。」

「あ、徳川、徳川なまえです。よろしくお願いします。」

「徳川!?────成る程。やはりワシとなまえは夫婦になる運命なんだな……。」

なに悟ったんだお前。わたしの苗字聞いて、めっ、夫婦になる運命とか……。っつーかやっぱイエヤスくん苗字徳川だったか……。

わたしが頭の中で今のほんの二、三分程度のやり取りをまとめていると、悶えていた三成くんがすくりと立ち上がり、一瞬でイエヤスくんの背後に立ったのが見えた。(動きが台所に住む魔王の様だったけど忘れることにする。)


「あ、」ぶない。そう続けようとしたわたしの言葉は三成くんの「イエヤスゥウウウウウ!」と叫ぶ声に掻き消されてしまった。

「貴様ァアア、一度とならず二度までも私からなまえを奪う気か!!」

「ハハッ、あの時は明らかにお前がフラれていただろう!」

あの時ってどの時だ。わたし、三成くんフった覚え無いぞ。

「家康が現れなければなまえはわたしの妻になっていたと言うのに!やはり貴様が!!」

「負け犬の遠吠えって言葉がお似合いだな。三成。」

「イッエッヤッスゥゥゥゥ……。余程斬られたいらしいな……。」

「どうやって?ここには武器一つ無いぞ?

まあワシは拳一つで十分だけどな!」

腰に手を当ててイエヤスくんが高らかにそう言い放つ。



ちょっと待って……。ついていけない……。わたしが、三成くんのお嫁さんでそこにイエヤスくんが来て略奪愛?
イヤでも、わたしは三成くんをフったらしいし、というかそもそもそんなことした覚えが無いんだってば!


不意に、昨年度卒業していった猿飛先輩の声で「なまえちゃんの前世は権現様のお嫁さんなんだよ。」と聞こえた気がした。帰って良いですか。










かるーく設定

徳川なまえ<猿飛先輩曰く前世は権現様のお嫁さん。今は普通の女子高生。

徳川家康<権現様。昔は日本を一つにしたことがあるらしい。

石田三成<凶王様。根は良い子。なまえちゃんにフラれたことがあるらしい。

前田先輩<一つ上の先輩。風来坊のあだ名がつく通り、根なし草。将来はきっとフリーターになるであろうお方。

猿飛先輩<国大に行った二つ上の先輩。忍って言われるほど身軽で何かと年下の真田幸村くんにパシられる。オカン体質。



関ヶ原に取り合いされる女の子としてシリーズ化しちゃう予定ですわー。



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