今週のジャンプ持ってこい。 受験も終わってすっきりした火曜日の昼下がり、部屋でごろごろしていたわたしはたいして広くない家なのに横暴俺様兄様にそうメールで呼び出された。 イラァとしながらも、わたしは心優しい妹なので、今週のジャンプを片手に普段めったに近寄らない兄さんの部屋の前まで来てみた。 「兄さん?入るよー。」 親しき仲にも礼儀あり。一応ノックをして兄の部屋に入室の許可を貰う。 「Okey」 兄は相変わらず流暢な英語でオーケーと言ったのでもう遠慮なしにドアを開いて。 ――…開いてわたしは固まった。 元より綺麗に整頓されていた兄の部屋は今まで以上に綺麗になって……というか物が無くなっていて。兄の部屋の真ん中にはどっさりときっと中身がぎっしり詰まっているであろう段ボールが積み重なっていた。 「は?兄さんなんでこんな部屋綺麗なの?」段ボールと唯一部屋に残っていたブルーのベッドに寝転がっていた兄さんに失恋でもしたから昔の物捨てたのかと問うたら、お得意のどや顔で「HA!俺が降られるわきゃねーだろ。」なんて言ってきやがったのでイラッときて手に持っていたジャンプを投げつけた。 まあ反射神経が素晴らしく発達している兄に向かって投げつけたのだから、当たり前というかなんというか。さらりとジャンプをかわした兄は無傷。それなのにわたしの全力を尽くした今週号のジャンプは無惨にも表紙が破れる、という羽目になってしまった。 「ちっくしょ、てめえなに避けてるんだってのばっきゃやろう!!」 「当たったらいてぇだろ。それに俺のイケテるfaceに傷でも付いたらどう責任取るんだよ、なまえ。」「ちっくしょうイケメン黙っとれよ!!」 普通兄弟が「あぁ〜俺ってイーケメンッ」とか言ってたら気持ち悪く感じるのだろうが、わたしの場合は違う。わたしの兄。伊達家長男伊達政宗。そりゃあもう母ちゃんの腹の中で美の神様の美貌を全てぶん取ったんじゃあないかと思うほど、奴は美人だ。それこそ正に俗に言うイケテるメンズ。イケメンだと自分で言って周りを納得させてしまう位に。 (まあそれに比べわたしってばね!自分で鏡見て泣けてくるわ!!) ちくしょう。女の子としては少々難有りな口癖をモゴモゴしながらも呟く。 そのまま部屋を出てやろうとドアノブを握ったが、ふと兄の部屋がすっからかんなのを思い出して、それを聞こうと手を離す。 「兄さん兄さん。」 「さっさと出ていけよ。」 「いやいや用事あるんだってば。」 「なんだよ?馬鹿ななまえちゃんは算数でもおちえてほしいんでちゅかー?」 「うるせぇ、……それで、兄さんなんで部屋片付いてるの?」 まさか引っ越し?なんてケラケラ笑っていたら「そうだ。」なんて兄さんが言ってくるもんで、大仏よろしくぴしりと固まる。 「え、あ、うそぉ!」 「うそじゃねーよ。You see?」 「おふぅ……あいしー……。」 それにしても、なんで突然引っ越しなんか。 そう思っていたわたしが怪訝そうな顔をしていたせいか、兄はしばしの沈黙の後「就職だよしゅーしょく!ったく、俺の年の事考えろってんだ。」ボリボリと頭を掻きながら素敵イケメンフェイスを歪ませてそう吐き捨てた。 「しゅーしょく……。」 そうだ、兄さんはもう22だ……。大学も卒業したことだし、世間一般ではもう会社に就いてもおかしくはない。というか、「兄さん就活してたのね……。」知らなかった。私自身、この一年受験生としてばたばたしていたのもあるせいか、兄が就活してただなんて聞いてもないし、そんな素振りなんか見ていない。 「hum?そりゃそうだろ、言ってねえんだから。」 「いやいやそこは言ってよ。」「受験受験ってかりかりしてる妹にんな事言えるかっての。」「そ、そう……。」 兄なりに気を使ってくれたのか……そうか、なんかうれしいなぁ。それにしても兄さん、お仕事かあ…。独り立ちなんだろうなあ。ちょっと寂しいかも……。 「なんだよなまえ、お兄ちゃんが居なくなって寂しいのか?」 「うっさいばっかやろう!!!さっさとどっか行け馬鹿兄さん!!」 寂しいと思っていたのが顔に出たのか、にやにやと下衆なにやけ面で兄はわたしを見つめてくる。あああもう恥ずかしい。 「Sorry、そう怒んなよ。たまには帰ってくるから、安心しとけ。」 「うっ…………、」 「それともなんでちゅかーなまえちゃんはやっぱりお兄ちゃんが居ないと寂しくて死んじゃう子なんでちゅかー?」 「うっるっさい!!!黙っててよ!そんなことないんだから!」 「ッハ、そんだけ叫べりゃ大丈夫だろ。」 散々わたしをからかった兄さんはにやりと笑むと「なんたって俺の妹だからな。間違いねぇ。な?」と優しい声音でそう言った。 何が大丈夫なんだよばっか野郎なんて頭の片隅ながら、照れに照れきったわたしは顔を真っ赤にして頷くことしか出来なかったのだった。 -------------------- ダンボールデスク 20110324 |