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「かんべーさーん。これどうするんっすかねー?」

積み重なった岩の山を見てふうっと溜め息をついて、相変わらず手首に枷をつけている相も変わらず不運な黒田官兵衛を横目で見た。


わたしが黒田官兵衛の元にドキドキ!はじめてのタイムスリップ!をしてから早くも数ヶ月が過ぎた。
当初は怪しさプライレス、なわたしだったが偶然、本当に偶然黒田官兵衛の所へ来た大谷吉継と言う武将がえらくわたしを気に入り、身元はおろか住むところも何も無いと知ると「暗の所で暮らせばよかろ。」と鶴の一声。
大谷さんには頭が上がらないのか黒田官兵衛はやむを得なくわたしを側に置くことになり、わたしは黒田官兵衛の側に嬉々として過ごすことになったのだ。因みに暗というのは黒田官兵衛の事である。
大谷吉継さまさま。感謝せねば。


とまあ、夢かもしれないし本当かもしれない状況に陥ったわたしは何事も悩みもなく、わたしがタイムスリップしたことも黒田官兵衛に言って、腹くくって、今の今まで仲良しこよしでやって来ている。

あえて悩みを言うならば、この黒田官兵衛という男先にもちらりと言ったがとにかくまあ、不運で。普段から一緒に付いて回るわたしにまでそのとばっちりをくらうのだ。
そうして今日もまた、巻き込まれてしまったのだ。

 黒田の人たちは、よく穴を掘る作業をする。学がないわたしは何のための作業か全く分からないが、官兵衛さんたちは穴を掘って掘って洞窟を作っている。因みに、わたしと官兵衛さんが会った場所もここの洞窟だ。
えっちらほっちら、いつもの様に黒田藩の方々は穴を掘っていたのだが、ただの事故か官兵衛さんの運の無さか。
皆と外れた空洞に入って作業をしていたわたしと官兵衛さんは、突然の小さな地震の影響で唯一の出入口だった通路には大小沢山の岩が積み重なって封鎖状態に、そうして閉じ込められてしまったのだ。

「小生は……どうしてこうも……。」

手首に嵌められた枷を見つめて官兵衛さんはぽつりとごちた。

「なんとも言えませんねー、官兵衛さんの運が悪いのはもう仕様がない事ですよ、きっと。」

そうか…なんて涙目にこちらを見つめた官兵衛さんに胸がきゅんと高鳴った。

ぐっ、ただのおっさんなのに。なんだこの破壊力……!今すっごくきゅんってしたよ……!
「小生のこの不運は、もうどうにもならんか…?」
きゅんってしたのは束の間。なんだか官兵衛さんから出てる負のオーラにわたしは軽く圧された。肝が冷えた。

――なにか、おかしい。

「官兵衛、……さん?」

「――……なあ、なまえ。お前さんはいつか。帰るのか?」

先の世へ。

それだけを言うと、官兵衛さんはさっとわたしを抱き締め耳元で囁いた。

「小生にはな、お前さんが絶対必要なんだ。なあ…なまえ……。」

抱き締められていて官兵衛さんの目が見えないけど確かに強い視線を感じる。

「枷をはめたままで、人を抱き締めるとは。随分器用ですねえ、官兵衛さんは。」
「なまえ。」

そういうことを話すときではない、と咎めるように官兵衛さんはわたしの名前を呼んだ。

「官兵衛さんなら、大丈夫です。とっても、良いお嫁さんを貰って幸せになりますよ。きっと。」

「だから――!」

「官兵衛さん落ち着いて、あんた知性派なんでしょ?言いたい事あるならもっともっとはっきり、言って下さいよ。」

そういうと官兵衛さんはうぐ、と言葉に詰まり、しばらく考えてから口を開いた。「…小生はな、お前さんが、……。」


官兵衛さんが次の言葉を発そうとしたその時、だだーんと何かが爆発する音と、ぐらぐらぐらと地震とは違う大きな揺れがわたし達を襲った。

「官兵衛さん、なまえ!!大丈夫かよ!!」


どうやら唯一の出入り口を遮っていたあの沢山の岩が崩れ、どささーと官兵衛さんの部下の皆さんがそこから来たらしい。
らしい、と言うのはわたしの目の前には官兵衛さんのあのたくましいお体しか見えなくて。わたしは未だに抱き締められているのだった。
それを見た皆さんがぴた、と止まったのが分かる。

「か…官兵衛さん……!あんた……。」

「いっいや、小生は、これは……!」


あわてふためく官兵衛さんを尻目に、いい加減離してくれないかなあと思った。




まあ、官兵衛さんから離れる気なんて何処にも無いんですけどね。心の中でこそっと思ったことはまだ言わないでおこう、とわたしは官兵衛さんの体に腕を回しながら決意したのだった。


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明日には盛大な宴が開かれてるでしょう。


ヒステリック!


20110302



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