「基山先生は、わたしとカンケイ。持ちたいと思いませんか?」 「──は?」 あつーい視線を感じるなあ、となんとなく後ろを振り向いたら自分が受け持つクラスの生徒が居て、俺と目が合うなり力強くそう言った。 突然の生徒からの言葉に俺は驚き、持っていた先程刷ったばかりの今度の試験問題をドサササと落としてしまった。目の前の女子生徒は一度それを一瞥し、その後小さな声でテストだ、と呟き視線を俺に戻しじっと見つめて、冒頭の言葉を再び力強く吐き出す。二回目。 あ、やばい試験問題見られた。とかそんなこと思う前に。ちょっと待ってカンケイってなんだ、彼女が言うカンケイとはもしかしなくとも、男女のカンケイなのではないか? いやいやそんな馬鹿な。いやいやだってこの子は学校の教職員全員が認める優等生とやらで、友人との目立ったトラブルも無く勿論補導経験も無いし家庭環境が悪いとも聞いていない、まさに絵に描いたようなイイコちゃんで担任としてもオトナとしても有り難い生徒なのだから。うん、今のは俺の聞き間違い。疲れてたんだよ。そして溜まってたんだよ。ナニかが。うん、気のせい気のせい。 頭の中でそのことを勝手に自己完結し、頭の中を切り替えて「何言っているんだみょうじさん。」とアルカイックスマイルを炸裂させて足元に散らばる問題用紙を拾い集める。 「基山先生、わたしは本気です。」 ───ピシリ。 その言葉に再度大仏よろしくアルカイックスマイルのまま固まる。 いやいやいやいや、わたしは本気ですって、一度は言われてみたいなとはフシダラな意味で思ってはいたがこんないたいけな女子生徒に迫られるとは思わなかったよウンウンウン。 そんな迫った張本人はしゃがんだままアルカイックスマイルで固まるアホなオトナ。つまり俺を見下ろしながら言葉を続けた。 「冗談なんか抜きで基山先生に抱かれたいです。お願いです、せんせ、わたしを。わたしのハジメテを。貰ってください。勿論タダでとは言いません。お金が欲しいというなら幾らでもあげますし、これから卒業まで好きに、」 「──ちょっと待とうかみょうじさん。」 突然マシンガンなトークを始め出すだなんて、俺人見る目無かったのか?え、みょうじさんこんな子だっけ?え?なにナニしたいの?そういうお年頃にしては何で俺を選ぶのかが。あ、みょうじさん子供っぽいの嫌いそうだから。納得。大方同学年の男子に頼むのが嫌なんだろうなあ。 「……いやいや違うだろ。」 ストップを掛けたくせに中々話し出さない上に彼女にとって意味の分からないことを呟いた俺に対して「せんせ?」と小首をかしげるのは犯罪(級の可愛さ)だと思ったのは致し方無い。 「あー、ゴホン。みょうじさん。そんなこと簡単に言っちゃいけないよ。君なら分かっているはずだろう?」 「分からないから……教えて下さい……。実際に、シて。」 気付いたら俺は問題用紙を全て拾いあげ立ち上がり、彼女を見下ろしていた。ということは自然と彼女は上目使いになるわけで。うっわ、今下腹にグッときた。ってダメだよ俺。 というかなんだ、こんな夢の様なシチュエーションは。夢か、夢なのか。俺疲れてるもんな。ノっても良いよね。一度くらい、何かあったら若気の至り……では済まないだろうけど。瞳子姉さんご迷惑おかけします。 「そこまで言うなら、教えてあげるよ。」 そう言って俺は彼女の手をパシリと掴んだ。 「基山センセー。」 鮮やかな橙色の夕日が射し込む、放課後。夕暮れ時。まあその後健全な俺は事に運ばせること無く生徒指導室に連れ込み小一時間ほどオトナとして彼女にお説教をした。お陰で彼女はすっかり不機嫌になりすっかりむくれあがってしまい不貞腐れた声でせんせーせんせーとセーラー服の彼女は俺を呼び続ける。 彼女にお説教をしたものの、俺もまだまだ我慢できるような大人になれないオトナで。少しだけ大人の顔をしている彼女に俺はコドモの様にドキリと胸を高鳴らせた。 |