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大切な人が居る。
すごく綺麗で弱くて馬鹿な男の子。さらりと流れる銀の髪の毛にロイヤルパープルとジョンブリアンのオッドアイが特徴的な男の人。
わたしはその人を言葉にできないほど大切で大好きで、そして誰よりも愛している。
好きな人、と言っても彼に対する愛が恋愛なのか友愛なのか、それは今でも分からない。

目指しているのも、互いに好きなものも、全て似通っていて。きっとおそらく、彼もわたしを愛しているのだろう。



(そうだったはずなのになあ……。)

少しだけむわりとした空気の中、慣れないベッドの上に寝転がる。右肩がずきりと痛み顔の筋肉が強張る。痛い痛いと身体が泣いていた。

いつからかわたしは、彼と違う考えを持つようになっていた。
わたしがこうだと思うと相手はああだと言う。そうしてああだこうだと言い合いになり、最終的に喧嘩してハイ、オワリ。
アイマイな、けどメイカクな。そんな溝が出来たわたしたちの関係を先に壊したのは彼からだった。
数刻前わたしの頬をうった時のぱぁんという虚しく響いた音が頭から離れない。きっとあの音を期にわたしも彼も何かが壊れたのだろう。ずっと同じだと依存し合っていた二人が、大人になるにつれ互いに見るものが変わったのを、相容れなくなってしまったのを悟ったのだ。

――さながら親を亡くしたのを悟った子供の様に。

壊れたのだ、わたしたちは。ただ、壊れたのが早かったのは彼だっただけで。
壊れて爆発してしまった彼はわたしの頬をうち、そして殴り、ボロボロにし、そして今居るこの部屋にわたしを閉じ込めた。

ふ、と右足に絡み付く錆びひとつない綺麗な枷をみてつきりと胸が痛んだ。

(やっぱりもう戻れないのか。)

スレチガイってレベルじゃない。彼が負の数を好んで数えるのなら、わたしは正の数を好んで数える。擦れ違わない。両極端な志。

最初は同じだった。見てきたものも食べてきたもの、関わった人も読んだ本も。なにもかも全て、同じだった。はずなのに。


「さめたか。」

ドアが開いた音と、寂しい足音が、真っ暗なこの部屋に響く。
彼が、アシュレイが。近付いて来る。見たくないとわたしは強く目を瞑った。

「さめないわ。さめたくない。」

「なまえ、」

「あなたには人を殺せない。」

「なぜ、」

「わたしが殺させないわ。」


わたしは敵も味方も、歴史を守りたいと武器を棄てた。
彼は敵も味方も、文明を無くしたいと武器を取った。

違ってしまったお互いの正義を秩序を善を、認められない。

彼はわたしにとって悪を望むのだ。だからわたしはその道を歩もうとする彼を全力で止める。殺させない壊させない喪わせない。


「なまえ、分かってくれ。俺は、」

「分かりたくない!!殺させないわ、アシュレイは、あなたの手は汚れない!」

「なまえッ!!!」


「――ッ……アシュレイの、ばかやろう……。」


声が余りにも近かったから思わず、目を開けた。開けなければ良かったかもしれない。彼は慈しむような目でわたしを見下ろしていた。それはわたしのボロ雑巾の身体にすぐ痺れ動けなくさせてしまう目だった。

――今更だ。遅かった。気付くのが。お互い。

「なまえ、なまえ。俺にはお前が絶対必要なんだ。
なあなまえ、頼むから……」

「アシュレイ…、」

「死ぬまで側に。どこにもいくな……。なまえ……。」
ぽたりと落ちた、彼の涙がわたしを塗らした。


わたしたちの互いの価値観は相容れないものになってしまった。
だけどもわたしたちは互いに依存し合う関係だった。それは男女の関係かなにかは知らない。確かにわたしたちは依存して生きてきた。欠けられない存在。


「愛してる愛してるんだ。なまえ。お前以外もういらない……!」

「わたしもよ。アシュレイ。だけどわたしはあなた以外も必要とするわ。」


そう吐き捨てると彼は少しだけ顔を歪め、わたしの首に手をかけた。



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チープな修羅場。


I can't know.

20110321



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