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「日本には夏に、盆という死者を供養する行事があるんだという
人伝いに聞いたのでこの知識が正しいのかは分からないが死者の魂は生前大切だった人の元へ帰るらしい」

「へぇ……日本ってやっぱりミステリアスな国なのね」

美しい髪の毛を風に弄ばれながら彼女は私の入れた紅茶を飲んでいた。

「君は、そのことについてどう思う?」
ふと浮かんだ考えを彼女に問いかけてみた。なんと答えるか何となく想像がつくが。

「どうって……そのボンって行事について?素敵でいいと思うわ。スピリチュアルな感じが」

「……やはり君にはロマンと言うものが無いようだな」

「あら?自分にはあるとでも?何たるナルシシスト」

第一、スピリチュアルな話もロマンがあっていいと思うのに。

そう続ける彼女と私のロマンと言うものはどこか違うらしく私は、私の考えを否定された気持ちに陥った。いつもの事だが、彼女と話すと腹が立つ。癪に障るのだ。その皮肉さえやめてもらえたら素敵な女性になれるだろうと思い、以前彼女にその事を言ったら「嫌よこの似非英国紳士」から始まる私に対する暴言が半時程続いたのでそれ以降彼女に反抗することは諦めた。紳士たるもの諦めることも必要だ、と自分を押さえつけて。

「君が、女性じゃなかったら暴言の一つでも吐いていたかもしれない」

「あ、そう。男女平等万歳な世界になっているのだから一つくらい吐いたって罪にはならないと思うけど
あぁ、それとも自分は完璧な紳士だとか言って淑女な私には優しくしようとしてるの?それだとしたら今更よね。失笑」

「君の言う通りだ。残念ながら、君に何かを言う勇気など私には無いみたいだな」

「チキンボーイ、成長したら良いのに」

君にだけは態度を変えられそうにない。その言葉を紅茶と一緒に飲み込む。
言いたい事を言わずに押し黙る私を見て彼女は小さく笑った。
彼女の笑声は透き通っている。昔からそうだ、彼女が私にどんな皮肉を言ったとしても笑声だけは皮肉を含んでいないのだ。その声とその時の彼女の表情が好きだからこそ彼女と一緒に居る。それだけで十分なのだ。

「エドガー」

小さく、彼女は私の名前を呼んだ。

「私がもし、本当にもしよ。エドガーより先にこの世から居なくなったら、毎年夏に貴方の紅茶を飲みに来るわ」

今の言葉は私の心を突いた気がする。珍しく、彼女と私のロマンというあの憎たらしくも私たちには必要なやつが一致したんだと分かった。

「前言を翻してやろう。君には私のロマンが少しだけ分かるようだ」

ばかじゃないの、彼女はまた小さく笑った。


何の皮肉か、彼女はその話をした年の秋に亡くなった。
決して自殺ではなく事故死だった。


彼女が亡くなってから、私は毎年夏になると毎朝丹精をこめた紅茶をバルコニーのテーブルに置くようになった。たまに私の家に泊まるフィリップ達はそれを見て何故だと聞いてくることがしばしある。理由は至極簡単。彼女が帰ってくるからだ。だけどそれは言わない。きっと彼女は嫌がるだろうから。私達の約束を他人に話すなんてどういう事なの?と眉間に皺を寄せながら。彼女は独占欲が強いのだから仕方が無いと言ったら仕方が無い。

コトン、彼女が好んで飲んでいたドアーズが入っているティーカップをテーブルに置いた。

「今日は、ミルクティーだ」

そう一言だけつげ、室内に戻る。悩ましい事に今年はまだ彼女は来ない。
淋しいものだ、私は小さく呟いた。



夜になって一日を終えた私は再びバルコニーへ向かう。
朝とは違ってティーカップの中身は空になっていて、代わりに一輪の赤薔薇がポツンとあった。

「あぁ……帰ってきたか」

薔薇を入れたのを見て彼女のご要望だと明日はローズティーが飲みたいらしいな。
口角が自然と上がった。



おかえり なさい


あってそうであってないお盆の定義



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