原田と変態マネ

 ※若干の下ネタが登場しますので苦手な方はご注意ください。


 寮の建物の裏に、二人の男女が向かい合っていた。
 大柄な体躯に、高校生にしてどこか威厳を感じさせる顔つき――稲城実業野球部キャプテンの原田雅功。女の方は同じく野球部のマネージャー、I 実である。
 あたりを重苦しい沈黙が支配していた。周囲に人の気配はない。――いや、実は建物の陰に、こっそり二人の人物が身を潜めていたのだ。

「鳴さんっ、こんなの覗きじゃないですか!」
「うるさいなぁ、こんな面白いモン見届けずに身を引けと?!」

 プンプンと怒り出したのはエースの成宮。それを諌めるのは後輩の多田野だ。二人は本人たちにバレないよう、小声で押し問答をはじめる。
 一応、尊敬する原田の顔を立てようと成宮を非難しつつも、多田野とてこの展開に興味がないわけではなかった。とりあえずここで観察していれば何らかの動きはあるはずだ。多田野がそんなことを考えていると、I 実がついに重い口を開いた。

「は、原田くん……あのね」

 I 実の頬はこれ以上染まれぬというくらい紅潮していて、目元はこころなしか涙目になっている。もじもじしながら顔を伏せる姿は、どこか庇護欲の湧くものだった。

「私ねっ、ずっと言いたかったことがあるの」
「……なんだ?」

 普段は頼れるキャプテンの原田も、女子を前にすると赤子も同然。反応に困って眉を下げる姿は、野球部員でもなかなかお目にかかれない光景だった。

「これ告白だよ! 雅さんも隅に置けないよね!」
「しっ! 鳴さん黙って」

 人差し指を口に当て、成宮に非難の視線を送る多田野。
 後輩のくせに生意気だと成宮は頬を膨らませるも、自分たちの存在がバレたらぶち壊しなのだと思い直して口を噤む。
 I 実は意を決して息を吸い、顔を上げて原田の顔をまっすぐ見つめた。

「原田くんは……付けてる? ――ファウルカップ」
「……ファ?」
「うん、ファウルカップ。局部に付けるアレ」

 I 実は原田が自分の言葉を聞き取れなかったのだと思い、はっきりした口調で言い直す。
 誰もいない建物の裏だ。原田は原田でI 実の言葉はしっかり耳に届いていたものの、それが本当にI 実の口から出たものなのか信じられずにいた。

「……あ、ああ」

 かろうじて言葉を吐き出す原田。

「ほんとっ?!」
「当たったら、痛ぇからな」
「だよね! ファウルチップ食らったら痛いもんね! キャッチャーなら当然かぁ」
「……ああ……」

 放心したように呟く原田に対して、I 実は先ほどの緊張はどこへやら。うきうきした調子で言葉を続ける。

「いくら原田くんでもそこまでおっきくないもんね! ファウルカップのせいだったんだよね」

 楽しげに言って、原田の下腹部あたりに視線を落とすI 実。「おっきい」のニュアンスは「あなたの身体おっきいですね〜」と関心する調子と何ら変わりない。
 その視線に心許ない気持ちになったのか、原田は控えめに腿を擦り合わせた。

「ありがとう! これで私、ちゃんとスコアラーの仕事に集中できる」
「そうか……よかったな」
「忙しいのに呼び止めてごめんね。――じゃあ」

 I 実が足取りも軽く立ち去る。
 その場には、魂を抜かれたような原田だけが残された。

「I 実先輩って……」
「ぷぷぷ。あんな雅さんの顔はじめて見た」

 呆然とする多田野と、ニンマリ笑う成宮。
 それからというもの、「ファウルカップ」という単語を聞くだけで、小動物のように肩をビクリと震わせる原田であった。


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