亮介と彼シャツ

 亮介の部屋には何度も泊まりに来ているのに、今日はうっかりパジャマを忘れてしまった。そのまま寝るわけにもいかないので、亮介からTシャツと短パンを借りたんだけど......。
 洗面所の鏡に映る自分の姿は、あまりにもしっくりきていて、新鮮さのカケラもない。まるで家での自分を見ているようだ。私は複雑な思いを抱えたまま、素足のままぺたぺた部屋へ向かった。

「お風呂お先に頂きました〜」
「うん」

 亮介が読んでいたホラーマンガから顔を上げる。すると、私のなんともいえない心境を感じとったのか、亮介が訝しげな表情を浮かべた。

「どうしたの?」
「え?」
「なんかヘンな顔してるし」
「いや、このTシャツと短パンなんだけど......」
「気に入らないの?」

 私は慌てて首を振った。わざわざ貸してもらっといてそれはない。ない、けれど。

「亮介と私って、あんまり体格変わらないんだなぁと思って」
「今更じゃん」
「ほら! こう、マンガみたいに『だぼだぼ〜』って袖折ったりできないんだね」
「............」
「亮介さん、頼むからその、虫を見るような目で私を見ないでください」
「......高校の時、そんなに伸びなかったからね」

 亮介はそうつぶやいて再びマンガへと視線を落とした。

「ごめん、そんな意味じゃなくて! 亮介はその体格だからこそあんなすごいプレーができるんだと思うし、やっぱその、中身が」

 なに、と続きを促す亮介。

「中身がかっこいいから、身長なんてほんとはどうだっていい」

 うわぁ、自分でもかなり恥ずかしいことを言ってしまった。
 すると亮介はなぜか、しばらく私を無言で見つめていた。口許は、こころなしかさっきより上がっている気がする。

「なに?」
「いや、そのカッコも悪くないなと思って」
「なんで?」
「なんか俺のものって感じじゃん」

 涼しい顔をしてとんでもない爆弾を投下する亮介に、私の身体は火照るばかり。それはきっと、湯上りのせいだけじゃない。

「もうっ、なに言ってんの」

 思わず照れかくしで近くにあったクッションを亮介に投げつけると、はからずしもそれは顔面に直前した。

「あ......」

 一呼吸置いて、クッションが亮介の顔からはがれる。

「ふぅん」
「すいませんすいませんすいません」

 念仏のように謝罪の言葉を唱えても、その耳には届いていないようだった。
 まだまだ夜は長い。


memoより転載
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