居残り組と見守り隊

 部活も終わり、そろそろ帰宅する時間。食堂を覗くと、テーブルにまだ三人の部員が残っていた。奥村くんと瀬戸くんと浅田くん、みんな同じ一年生だ。
 野球部の食事は想像をはるかに超える量であり、現在、奥村くんと浅田くんはそれらと格闘している。一方、瀬戸くんだけは食べ終わった様子で、まったりとお茶を飲んでいた。
 私がマネージャーとして野球部に入部して半月が経った。仕事はまだまだ失敗ばかりだけれど、マネージャーの先輩たちは優しいし、選手のみんなはかっこいいし、思いきって入部してよかったと思っている。
 私は室内へ入らず、しばらく壁にもたれて、ノートを眺めながら外で時間を潰していた。今日教わった仕事内容を復習するためだ。
 それからしばらくした頃、突然食堂の扉がガラリと開き、中から瀬戸くんが出てきた。

「お?」
「あ、瀬戸くん。お疲れさま」

 すると瀬戸くんは目を丸くして私を眺め、

「お前まだいたのかよ? マネージャーはとっくに帰ったと思ってたけど」
「あ……うん。最後に食堂を片付けようと思ってて。テーブル拭いたりとか」
「それって頼まれてる仕事?」
「ううん、これは私が勝手にやってることだから。最後にキレイにしといた方が、次の日気持ちいいし」
「じゃあそれ、あいつらに言っとくわ。じゃねーとお前、ずっと帰れねぇだろ」

 すぐに瀬戸くんが食堂へ引き返そうとしたので、私は慌てて制止した。

「待って! せっかくまだ食べてるのにいいよ」
「けど……」

 なおも食い下がる瀬戸くんに私は首を振り、ガラス越しに奥村くんと浅田くんを指す。

「……ねぇ、これってなんだか、お昼休みまで残って給食食べてる子供みたいじゃない?」
「……は、確かに」
「私、小さい時、食べるの遅かったからいつもお昼休みまで突入しちゃって。気持ちすごいよくわかる」
「あー、いたな、そういう奴。昼休み全然遊べねぇんだよな」

 食堂へ視線を戻すと、浅田くんはげっそりしながら口をモゴモゴさせ、奥村くんは暗い表情で黙々とご飯を口に運んでいた。まるで拷問のような、はたまた修行のような。

「浅田くんは食が細くて食べられない子供って感じだよね」
「ははっ、じゃあ光舟は嫌いなモンはぜってぇ食わねぇって子供だろーな」
「頑固っぽいもんね」
「実際そうだからな」
「こうやって一緒に残ってると、お互いシンパシー感じちゃったりして」
「んー、それはどうだろうなぁ」

 なおも黙々と食べ続ける二人。そして、お互いが箸を置いたのはほぼ同時だった。

「……何気に張り合ってたんじゃない?」
「いや、それは光舟だけだろ」
「負けず嫌いみたいだもんね」

 食べたあとの奥村くんの行動は素早く、慣れた手つきで食器を洗い終えた。そのまますぐに出口へと向かう。

「やべっ! 光舟に見つかっちまう」

 瀬戸くんは突然声を上げ、脱兎のごとく駆け出した。そして瞬く間に遠ざかってしまい、すぐに見えなくなった。もしかするとその走力は、チーターの異名を持つ倉持先輩といい勝負かもしれない。
 そして、瀬戸くんの姿が見えなくなったと同時に、食堂から奥村くんが顔を出す。奥村くんは誰かを探しているかのようにキョロキョロと辺りを見回していた。

「あ、瀬戸くんなら今、室内練習場の方に走って行ったよ」
「…………」
「えと……」

 奥村くんはどこかばつが悪そうな顔をして、すぐそのあとを追い走って行った。

「さてと、やりますか」

 これからもよろしく、の意を込め、私は食堂に向かって頭を下げた。


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