成宮と猫

「猫カフェ行きたいねぇ……」

 ぽかぽかと陽射しの暖かいお昼休み、私は彼氏である鳴くんと中庭のベンチに座っていた。ちょうどお弁当を食べ終え、私が雑誌を広げていると、そこに今流行りの猫カフェ特集の記事が載っていたのだ。
 鳴くんはパックのオレンジジュースを飲みながら雑誌を覗きこんで、

「ふーん。猫なんてその辺にいるじゃん。なんでわざわざカフェ行く必要あんの?」
「その辺にいるって言うけどね、野良ネコなんて警戒心強くてなかなか触らせてくれないんだから。その点、猫カフェのネコは人慣れしてるからきっと触り放題だよ」
「触り放題のネコって、ネコとしてプライド捨ててる気がするんだけど」
「いいのー! 触りたいんですー!」

 いーっと歯を見せ反論しながらページをめくると、そこにタマちゃんというお店の看板ネコの写真が載っていた。可愛いけれど、一言で言えば大きい。他のネコと一緒に写っている写真を見ると、本当にネコかと疑うほど巨大だ。

「デカっ! なにコレ、山猫かなんかじゃないの?」
「へぇ、メインクーンっていうんだって。元々大きい種類みたい」
「え、なに、ジャガイモ?」
「それメークインだよ」
「うるさいなぁ、わかってるよっ!」

 鳴くんが真っ赤な顔でプンスカ怒っている。勘違いした鳴くんはちょっと可愛い。

「メインクーンって響き、鳴くんに似てるね」

 私が同意を求めて隣を見ると、鳴くんは不満げに「そう?」と唇を尖らせた。

「メインクーン、メイクーン、鳴くーん」
「俺、そんなデカイのじゃなくて、もっとすらっとした奴がいいなー」
「メインクーンは『穏やかな巨人』って呼ばれてるんだって。確かに鳴くんとはちょっと違うかもね」
「どういう意味?」
「んー、もっと猫っぽいって意味」
「ねぇ、それって――」

 鳴くんが口を開きかけたその時。前方から、ガサッと物音がした。ここは緑が多いから、植物の葉が擦れた音だろう。あたりを窺っていると、樹木の陰から何やら白っぽいものが顔を出した。
 思わず息を呑む。――そこにいたのは、すらしとした肢体の白い猫だった。
 あっ、と大声を出しそうになる私の気配を察知したのか、鳴くんは人差し指を口元に当て、しーっというポーズをした。
 私は声をひそめ、

「あのコ、鳴くんに似てる……! 毛色とか目の色とか。てかめちゃくちゃ可愛い!」
「ま、メインクーンよりは近いかな……」

 鳴くん本人もまんざらではない様子だ。

「触りたいよー。ねぇ、何か食べ物持ってない?」
「ないよ」
「えー、じゃあがんばって呼び込むしかないかぁ」

 私はよしっと拳を握り、ネコと視線を合わせるように屈んだ。右手をそっと差し出し、「おーい、ネコちゃーん」と小声で呼びかけてみる。
 ネコはしばらく警戒しながらこちらも窺っていたけれど、やがてつれない様子でツンと顔を背けた。

「失敗だ……」

 しょんぼりしていると、今度は鳴くんが立ち上がった。

「鳴くん?」

 鳴くんはネコをじっと見つめている。瞬きもせずに、ただひたすら。
 ネコの方も動きを止め、鳴くんをじっと見ていた。二人の間にあるのは、ぴんと張りつめた野生の緊張感そのもの。
 数秒間、熱く見つめ合った(睨み合った?)二人だっが、やがてネコの方が根負けした。じりじりと徐々に後ずさりしながら、やがて背を向け走り出す。

「勝った!」

 フンと満足げに鼻をならす鳴くんは、やっぱりネコ科だなぁと納得した、そんな午後。


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