伊佐敷とハロウィン
※大学生くらいの設定です。 練習で忙しいとか言って、あいつに衣装の件を丸投げしたのがマズかった。こんなのお約束の展開すぎるだろ。
「わぁ〜! 純、狼男すっごい似合うよ!」
「似合うよじゃねーよ! だいたいなんで狼男なんだよ!」
「え〜、そんなの聞くまでもないじゃん」
スピッツ→犬→狼→狼男。こいつの単純な発想が手に取るようにわかる。
「で、赤ずきんのお前の引き立て役なわけか」
「そう、見て!」
そう言いながら、にっこり笑顔でくるりと一周するもんだから、スカートがギリギリのラインまでめくれる。なかなかふざけた赤ずきんだ。ニーハイなんか履きやがって。
だいたい、狼と狼男とでは全然意味が違うが、こいつにとってはどうでもいいことらしい。
「オオカミ男さん、エスコートしてね?」
「けっ」
「あ、あっちでお菓子配ってる。行ってみよ」
そのまま俺の手を取って歩きだしたので、反射的に俺は、その手を引っ張って壁沿いへといざなった。
「きゃ?!」
トリックオアトリート? そんなしゃらくさいこと抜きだ。
「......お前が赤ずきんだったら、俺に食われてもいいってことだよな?」
おい......何言ってんだ俺。
勢いで言ってしまったセリフに、心の中で自分自身につっこんだ。こんなのは御幸あたりがお似合いだろ。これは、このコスプレだらけの異様な雰囲気にのまれた俺なりの冗談、いたずらのつもりだった。
案の定、目の前の可愛らしい赤ずきんの頬が、ずきんの色に負けないくらい赤く染まっていくのがわかる。それから少し顔を伏せたあと、恥ずかしそうに口を開いた。
「......いいよ」
その瞬間俺は、ずきんで覆われた小さな頭を引き寄せて、食むように口付けた。その味は、この会場で配られているどの菓子にも負けないほど甘かった。
memoより転載
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