カラオケに行こう!
(野球部員が歌ってだべるだけのドリーム要素一切ナシの小話。検索よけのため伏字にしておりますので、ご想像でお楽しみください) 今日は久しぶりに部活がオフだったため、結城、伊佐敷、小湊、増子、丹波、坂井の六人でカラオケに来たのだった。
「なんかヘンな感じだな。お前らとカラオケなんてよぉ」
伊佐敷は感慨深げに言い、これからの大熱唱のためにファンタグレープで喉を潤した。
「そうだな。なかなかこういう機会はないからな」
結城はおもちゃを与えられた子供のように、キラキラした瞳でタッチパネルを見つめている。
「ま、たまにはいいんじゃない? みんなが何歌うか興味あるしね」
「うが!」
「......ちょっと緊張してきたかも」
「丹波ァ! テメェ、マウンドじゃねえのに何緊張してんだよ! 力抜け!」
「......あ、ああ」
その光景を見ながら、場所は変わってもいつものノリだなと坂井はため息をついた。伊佐敷はタッチパネルの中から自分の十八番を探し当てる。
「よし、トップバッターは俺だぜ! って、哲ー?!」
「......よし、これでいいのか?」
「テメ! 何先に入れてんだよ!」
画面には転送完了の表示が映し出されていた。
「純、うるさい。次歌えばいーじゃん」
「チッ!」
「すまんな」
「おら!マイク忘れんな!」
「ああ......純の分まで心を込めて歌うぞ
♪ 〜〜
「なんだ? 哲、入れ間違えたんじゃねーか?」
坂井は渋めのイントロと謎の語りを聞き、首をかしげながら結城の方を見る。一同も同様にそちらを向いた。
「......? 合っているぞ? ......♪ しとしと」
「まさかの橋さんーー?!! どんだけ子連れ○好きだよ!!」
伊佐敷は結城にツッコむが、結城は全く意に介さず歌い続けている。これは本当に高校生の選曲かと、一同は結城の割合一本調子な歌声に聞き入っていた。
「ふぅ......やはり名曲だな」
歌い終えた結城がマイクを置き、代わりに伊佐敷が気合い十分といった調子で勢い良く立ち上がる。
「次はいよいよ俺の番だぜ!」
♪ 〜〜
「ああ、この曲聞いたことあるな。確かエレカ○?」
「うが」
それは、丹波と増子も知っている曲だった。
伊佐敷がすうっと息を吸い、声を発しはじめた途端、カラオケルームが震えた。
「......純、声量ありすぎ。ジャイアンじゃないんだから」
「うまいことはうまいけど、これじゃあこっちの耳がもたねぇよ。哲、ちょっとボリューム下げてくれ」
坂井は伊佐敷のジャイアンもびっくりなその声量に耐えかね、結城に音量調節を頼む。
「......む? これか?」
結城はボリューム調節用のツマミを右に回した。
♪ 〜〜「でかっ! 哲!!逆だー!」
「む、むむむ? どれだったか」
「もう純うるさい!」
小湊は伊佐敷の後頭部に小湊チョップを鋭く繰り出した。
伊佐敷が頭を押さえながらその場にうずくまる。
「っ痛ぇ!!」
「よし、止まったよ」
「そうか、元を止めればいいんだな」
結城は納得したようにうなずいた。
♪〜〜
「うむ、次は俺だ」
「おっ! 増子が歌うぜ!」
「ああ、普段無口だから楽しみだな」
画面に曲名とアーティスト名が映し出される。
「とっ東○プリン?!」
坂井が思わずぶほっと烏龍茶を吹く。
「カラオケまでプリン持ち込むんじゃねー!!」
吠えまくる伊佐敷の隣の増子は、ご満悦で大熱唱する。普段は穏やかな増子が本能のままに歌うと、謎の迫力を発揮するから不思議だ。
「うし! 次は俺の番だ!」
坂井は鼻息荒くマイクを握りしめた。
♪ 〜〜
「まさかの『ヤマザキ○番』?!!」
「坂井は自分のヒッティングマーチか。俺も次は『ルパ○三世のテーマ』を歌おう」
「ヤマザキ懐かしいな......俺、昔よくコロコロ買ってた」
丹波が懐かしそうにぽつりと言った。
「ああ、星の○ービィとかあったね」
「うがぅ!!」
そこから一同のノスタルジーが一気に爆発し、坂井の歌そっちのけでポ○モンだのレッ○&ゴーだのと話が飛び交う。
皆がコロコロ話で盛り上がるなか、伊佐敷一人が拳を握りしめてその光景を見つめていた。
(チクショウ! あの頃の俺は、なかよしとりぼんを読んでたから話題に入れねぇ......! ジャ○ヌだったら一時間は語れんのに!)
熱唱し終えた坂井がマイクを置いた。
「誰も聞いてねーし!」
「悪りぃ悪りぃ! あ、つーか丹波も早く何か入れろよ!」
「......いや、俺は」
♪ 〜〜
「なっ!コブ○ロ?! なんで......」
「丹波、着メロにしてたでしょ? 俺が代わりに入れといたからさ」
クスリと悪魔の笑みを浮かべる小湊を、丹波は絶望的な面持ちで眺める。それからマイクを持ち、意を決したように歌いはじめた。
♪ 〜〜
「丹波うめぇな!!」
「おう!」
「意外な特技......」
「普段あんなにビビりなのにね」
「心に染み入る歌声だな......」
一同の割れんばかりの拍手が、歌い終えた丹波を包んだ。
「丹波、最高の歌だった。ぜひ俺の打席の時に歌ってくれ」
「おい哲! こいつも打席あんのに無理だろーが!」
「む、そうか」
「何言ってんのさ。そもそもヒッティングマーチに生歌とかムリだから」
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