赤ずきんちゃん

*登場人物
赤ずきん......主人公
スピッツの純......伊佐敷 純
みゆき......御幸 一也


 むかしむかし、あるところに、とても可愛らしい「赤ずきん」という女の子がいました。

 ある日、おともだちのみゆきが病気になったので、お母さんのすすめで赤ずきんはお見舞いに行くことになりました。
 みゆきのおうちがある深い森を、赤ずきんは進んでゆきます。

『悪いひとには絶対ついて行っちゃだめよ』

 お母さんの言葉を思い出しながら、赤ずきんはてくてくと歩いていました。

「森の中は緑がいっぱいで気持ちいいわ」

 けれど、その赤ずきんを狙うひとつの影がありました。

(あの赤いずきん、間違いねぇ。あいつが赤ずきんか......)

 スピッツの純です。純はとがった白い耳で赤ずきんの鼻うたを聞きながらあとを追います。

(こいつに恨みはねぇが親分の命令だ。仕方ねぇ......)

 スピッツの親分は可愛らしい赤ずきんにほれこみ、赤ずきんをてごめにしようと企んでいたのでした。組のなかでまだ若い純には当然、親分の命令は絶対です。
 純は赤ずきんの前に立ちはだかりました。

「オラァ!テメェが赤ずきんか!ちょっと付き合え!」
「きゃ!」

 純ははじめてまともに赤ずきんの顔を見たのでした。

(なんだこいつ! スゲー可愛......)

 純は首をふりました。と、同時に親分の言葉が頭にうかびます。

『なんならお前も頂いちゃっていいぜグエヘヘヘ』

 純はまた激しく首をふりました。

「まぁあなた、かわいい耳ね」
「っ!うるせぇよ!」

 調子がくるった純は吠えました。赤ずきんは純の顔をのぞきこみます。

(耳があるから、ひとじゃないわ。だから悪いひとじゃない)

「ごめんなさい。付き合いたいのだけど、みゆきのおうちへ行かなければならないの。じゃあね、スピッツさん」

 赤ずきんは先へと急いでゆきました。そして、ぽかんとした純は赤ずきんを見失ってしまったのです。

「いけねぇ、見失っちまったじゃねーか!」

(いや、でもさっき家があったな。この森は、あんま家がねーからたぶんあそこだろ。先回りして家で待ちぶせるか。みゆきは女だろーしなんとかなるだろ)

 純は全速力で駆け、赤ずきんより先にみゆきのおうちに辿りつきました。そのままチャイムを鳴らします。扉ががちゃりと開きました。

「はいはい、どなたさん?」

 そう言って眼鏡の少年が出てきました。

「............」
「............」

 二人はしばらく見つめあいました。

「お前誰だ?」
「はぁ? 御幸一也だけど。てかアンタこそ誰?」

(苗字?! ややこしいんだよ!)

 みゆきは純よりも背が高く、力ではかないそうもありません。

(しゃあねぇ、作戦変更だ)

「向こうの河原で赤ずきんってやつがケガしてんだ。お前も助けるの手伝ってくれ」
「赤ずきんが?! わかった。すぐ行くぜ!」

 みゆきは救急箱をもって急いでとびだしました。純も後ろからついてゆくふりをしましたが、みゆきの目をぬすんですぐにおうちへ引き返しました。

「なんとか追っ払ったな」

 純はおうちの中へ入りました。けれどすぐにピンポーンというチャイムの音が鳴りました。

「やべっ!どっか隠れるとこ......」

 あたりを見回すとベッドがあり、そこへもぐりこみます。

(何が悲しくてヤローのベッドで寝なきゃならねーんだ......)

「はーい」

 純はてきとうに声色をまねて返事をします。赤ずきんはおうちのなかへ入りました。

「あらみゆき。寝ているの?」

 赤ずきんはベッドをのぞきこみました。顔はおふとんの隙間からわずかにのぞいています。不思議なことに、おふとんから可愛らしい白い耳が出ていました。

「みゆき、みゆきの耳は、ずいぶんととがっているのね」

 赤ずきんから尋ねられた純はとまどいました。

(そういや昔、オオカミのこんな童話があったな。その文句を真似てみっか)

 すると、みゆきに化けた純が言いました。

「ああ、お前の言うことが、よく聞こえるようにな」
「それに目が鋭い。何だか怖いわ」
「怖がることはねぇ。可愛いお前を、よく見るためだからよ」

(何言ってんだ俺は......!)

「それから何と言っても、顎のおひげ。みゆきにおひげなんてないと思っていたから、びっくりしちゃったわ」

(あの童話は口だったな!こういう時なんて言えばいーんだ!?)

「そうとも。お前を......」
「......お前を?」
「食べられないからよ!」

(いや、全然意味通じてねーよ!)

 純は自分につっこみながら赤ずきんにせまりました。

「あら、さっきのスピッツさん」
「くっ!」

 赤ずきんは可愛らしい目で純を見つめます。

「スピッツさんはわたしを食べるの?」

 その言葉を聞いた純の顔は、一気にりんごのように真っ赤になってしまいました。

「おおお俺は......!」
「なにかしら?」

 赤ずきんは目を瞬いて純の言葉をまちます。純はあきらめて床にひざまずき、頭をさげました。

「す、すまねぇ! 俺はお前を親分のとこに連れて行こうとした......。ホントすまねぇ」
「親分? スピッツの親分かしら?」
「ああ、スピッツ組の親分だ。悪いことと知りながら俺は逆らえなかったんだ......」
「そうだったの」

 赤ずきんは顔をふせました。けれど、すぐにぱっと顔をあげて純の顔を見つめました。

「じゃあにんげんとして暮らせばいいわ!」

 そう言って、赤ずきんは持っていたバスケットの中をごそごそとさぐっています。それから、いちまいの青い布をとりだしました。

「これ、みゆきにって作ったのだけど......」

 赤ずきんは青い布をていねいにひろげてゆきます。

「このずきんはみゆきよりあなたの方が似合うわ。あなたにあげる」

 そう言って赤ずきんは純に青いずきんをすっぽりかぶせました。

「ほら、これでもう耳は見えなくなった。これでスピッツ組じゃなくなったわ」

 純はしばらくぼうっと赤ずきんの顔をながめていました。それから、赤ずきんの顔を見て笑いだしました。
 赤ずきんは首をかしげます。

「......そうだな。ありがとな」

 そして二人はみゆきのおうちを後にしました。赤ずきんと青ずきんは、仲よくおててをつなぎ、森のなかへ消えてゆきました。


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