Clap thank you !




ありがとうございます! 創作のエネルギーです! 何かメッセージなどございましたらどうぞ (改行できないため、Enterキーを押すと送信されますのでお気をつけください)ご返事はresにて 。
以下、拍手文です(3/18更新)

〜1年生ズと風紀委員〜

 ここに一人の風紀委員がいる。彼女は中学の頃から風紀委員を務め、その仕事に誇りを持っていた。規則を守ってこその学校生活は当然のこと。彼女は学校の風紀を乱す輩と、日夜戦っているのだった。

「そこの女子! スカートが短い! 膝上何pだと思ってるの!」
「ハァ? 今時膝下なんて化石だっつーの」

 週に一度、校門の前で登校中の生徒に風紀チェックをするのが彼女の仕事だ。忙しい顧問に代わり、いつの間にか引き受けるようになった。
 バインダーに挟んである生徒名簿をめくりながら、その女生徒の名前の横にチェック印を付ける。

「明日からはきちんと直すように!」
「ハイハイ」
「『はい』は一回!」
「はーい!」

 下着が見えそうなくらい短い丈のスカートを穿いた女子は、ぶつぶつ小言を言いながら去っていった。
 全く、いくら注意しても全然聞きやしない。メガネのブリッジを押さえ、ため息をつく。
 ああ、いけない。こんなことで負けてたまるものか。
 彼女は気を取り直し顔を上げた。するとーー視界の端に、何やら赤いものが映った。信じられないものを見た気がして、思わず振り返る。

「……な……」

 彼女の横を二人組の男子生徒が通り過ぎていった。一人は彼女と同じくメガネをかけていた。いや、問題はそこじゃない。これは――

「そこのトサカ頭ーー! 止まりなさいっ!」

 大声を上げると周囲の生徒が一斉に振り返った。しかし肝心の本人は一向に気づく気配がない。

「だからそこの赤メッシュ! あんたよあんた!」

 もう一度怒声を浴びせると、黒髪に赤のメッシュを入れたメガネの男子が、「俺?」と振り返った。

「そう! そこのあんた! 青道では髪を染めるのは校則違反なんだけど。しかもそんな派手な色」
「あ、コレ? かっこよくないッスか?」
「は?」
「黒髪に赤ってスゲー映えるでしょ?」

 悪びれもせず笑顔で応えるその姿に、めまいがした。しかも制服の真新しさから見るに、どうやら一年生のようだ。

「あなた一年生よね……。名前は?」
「はいっ! 一年、瀬戸拓馬! 野球部でポジションはセカンドです!」

 瀬戸は運動部特有のはきはきした声で、聞いてもいない部活とポジションまでわざわざ教えてくれた。「野球部」の言葉にさらに頭を抱える。

「野球部は青道の顔でしょう? そんな生徒がこんなニワトリみたいな頭していいと思ってんの?」
「ニワトリ?! はっは、面白いッスね、先輩」
「笑い事じゃないっ!」

 ヒートアップしていると突然、瀬戸の横にいた男子がぼそりと呟いた。

「……遅れそうだから先に行く」
「おい、光舟待てよ! お前白状だな!」
「関係ないから」
「えーー?! ダチがそれ言う?」
「ダチ?」
「なんでそこ疑問系なのっ?!」

 彼女は今まで瀬戸にばかり気を取られていたが、その時になって初めて隣の男子を見た。その男子の色素は薄く、茶色っぽい髪は朝陽に透けると金色に光った。これは――

「あんたも校則違反じゃない! その髪!」
「髪?」
「その茶髪よ」
「……これは生まれた時からです」
「届けは出してるの?」
「出してません」
「じゃあ違反じゃない」

 間髪入れずにそう言うと、光舟と呼ばれた男子は押し黙った。そして彼女へと鋭い視線を注ぐ。いかんせん顔立ちが整っているだけに、不思議と迫力があった。それに若干気圧されながら、次の言葉を考えていた時だった。
 大柄な一人の男子が、瀬戸たちの横を通り過ぎていく。それに気づいた瀬戸が右手を上げた。

「あ、結城。おは〜」

 結城と呼ばれた男子は「ッス」と挨拶をし、足早に校舎へ向かおうとしていた。だが。一見、校則違反とは無縁そうな外見だが、彼女は見逃さなかった。

「そこの男子!」

 結城がのそりと振り向く。

「その眉の剃り込み! 不良じゃない!」
「…………」
「あちゃ〜、結城まで捕まっちゃったか」

 瀬戸は笑いながら声を上げた。
 結城は無言で彼女に歩み寄り、こう言った。

「これは昔、兄貴とふざけてて眉の所を切ったんです」
「……へぇ」
「以来、ここに毛は生えない」
「……そう」

 結城には、光舟とは別の迫力があった。後ろで瀬戸が「そんなエピソードが!」と感嘆の声を漏らしている。……全く、紛らわしい限りだ。
 それから彼女は腕を組み、仁王立ちになった。

「とにかく! 結城くんはいいとしてそこの二人は校則違反! 瀬戸くんはメッシュをやめること。光舟くんは届けを提出すること!」
「え〜〜」
「『えー』じゃないっ!」

 するとその時。また別の男子が近づき、爽やかな調子で「おはよう」と声をかけた。彼女が視線をやるとそこには、愛くるしい顔立ちの男子が立っていた。

「ちょうどよかった由井! ちょっと助けてくれよ〜」

 瀬戸が泣きつくと、すぐに事情を察したらしい由井は彼女の方を向いた。
 彼女は、絶対に負けないんだから、と身構える。
 すると由井はにっこりと笑いながら、

「先輩、朝からお疲れ様です」
「あ、はい……」
「いつも校則を守る先輩は素晴らしいと思います」
「あ、どうも……」
「野球部は――特に俺たちの世代は個性が強いみたいで、ご迷惑をおかけしてすみません」
「あ、いえ……」
「でも個性が強いっていいことですよね。今の時代、ナンバーワンよりオンリーワンが求められてますし」
「あ……」
「こんな俺たちですが、今後ともよろしくお願いします!」

 恭しく頭を下げる由井。聡明でくりっとした大きな瞳に見つめられると、彼女は何も言えなくなってしまう。ちなみに、彼の風貌に校則違反は見当たらない。

「では失礼します」

 彼女は呆気にとられながら、四人の一年生を見送ったのだった。

top

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -