「ね、別れよう」
そう言ったユイは清々しいほどキッパリと、決心のついた顔をしてた。俺がすがって引き留めたって動じない、一目見てそう思った。
ほどけたブーツのひもを結ぶのに悪戦苦闘してる姿が、どこか小さく見えて、「ああ、こんなになるまで無理させたのか」と無償に謝りたくなった。すがり付きたくなった。俺のプライドが無駄に邪魔をして、それはできなかったけれど。
「ねえ、きっとマルコ気付いてないかもしれないけど。本当は私達、今日で付き合って2年だったの」
別れ際、それを聞いた瞬間。
今まであったものが全部崩れていく気がした。言い訳がましいことはわかってるけど、浮気は、ほんとに出来心だった。
ユイを嫌いになったわけじゃない。
時間が経つにつれて、新鮮さを求めてあいつを傷つけて、結果俺は一番必要で落ち着ける、ユイの"隣"を失った。
「…帰ってきてくれよいっ、」
自分の声が思ったより切羽詰まっていたことに気付いた。失ってから気付くなんて、そんなの有り得ないと思ってたのに。
必死に堪えていた涙も強がる素振りも、全部わかってたのに。手を差し出すことさえできないなんて。
「…くそっ、くそ、っくそ!」
ダン、と壁に打った手が少しズキズキする。
あいつの痛みはこんなもんじゃないだろうけど。ほんの少しでも理解できた気になって、だけどやっぱり違う気がして。
「…大嫌いだよい」
大切にできなかった俺が。
全てを壊してしまった俺が。
あの日あの時あの場所に、もし戻ってこれたなら、少しは違った未来があっただろうか。
涙の理由にさえ嫉妬
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