(学パロー)

がやがやと騒がしい校内は、同じ制服を着ている人ばかりで溢れて、特定の生徒を見つけることはなかなか難しい。だけど、ユイのことは一発で見つけられる辺り、俺も相当末期らしい。
ユイとその隣で笑う麦わら屋はおそろいの制服を着て、下を見ると自分はスーツを着ている。頭ではわかっているけれど、その差がいつも俺を苦しめている。


「ロー!あのね、ようちえんでね」


ユイと出会ったのはまだ彼女が舌足らずの時で、だいぶ年上の俺によくなついていた。
悪い気はしないからよく構ってやっている内に、自分が子供好きなのだと思っていた。だから教師を目指し、実際になることが出来たのだ。
だけど実際は子供じゃなくてユイが好きなんだと気付いたのは、皮肉にもユイの居る学校に赴任してからだった。



「おい、下校時間すぎてるぞ」
「あ、ローだ」
「先生」
「…ローが先生になったのは知ってるけど、"知ってる"と"理解する"は違うんだよ」

放課後に1人で居るユイを見つけ、嬉々とする気分を隠したまま教室に入った。彼女が発した言葉に、俺は心の中で深く同意した。
目の前に居るのに触れることを戸惑ってしまうのは、きっと"理解して"いるからだろう。ユイもそれを感じているんだろうか、少し伏せられた目線に期待してしまう自分がいた。

――もっともっと早く、俺が自分の気持ちに気付いていたら
――もっともっと早く、ユイが生まれて来ていたら

有り得ないもしもを頭に巡らす度に、ユイに関して女々しくなる自分に嫌気がさした。

「なぁ、」
「ん?なに?」

今ここで想いを伝えたら、お前はどうする?聞きたいけど聞けない俺を知ったら、お前は弱虫だと笑うのか?

「…なんでもねェ」

ユイが持ってる飴を無理矢理もらう。嫌いなレモン味を渡されたけれど、ユイが好きだと言った苺味を食べる。
甘ったるい味に思わず顔をしかめる俺に笑うユイに、女々しいと思いながらも早く帰れと強がりしか言えない。
こんな自分が顔を出す度に、また考えずにはいられない。

進むだけ進んで戻らない時計の針を戻して、ユイと同じ目線で生きていきたい、と。



計の針のように一方行ないです




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