タバコの煙を横目で見送りながら、ふと思う。
――そういえば、わたしは彼に好きと言われたことがあっただろうか?
ゆらゆら揺れる白いソレの元を辿れば、ローの骨ばった手が見えた。
彼とは同じ職場で、同期であるペンギンから「大学の頃の先輩だ」と紹介された。それからはよく3人で飲みに行って、気付いたらそれが2人になっていた。
連絡を取り合った回数も、2人きりで会った回数も、身体を重ねた回数さえも数えると両手じゃ足りないのに。言葉がないだけでこうも不安になるなんて。
「ねえ、ローさん」
「ん?」
タバコをくわえたまま、前を見ていたローさんはこっちを向いた。
わたしの家まで残り5分のこの道は歩きタバコが禁止だと何回も言っているのに、彼がそれを聞いたことは一度もない。
「わたしのこと好き?」
驚愕した顔のローさんは珍しくて、思わずまじまじと見てしまっていたら、だんだんその顔が愉しそうな笑顔に変わっていった。
「どうした、急に」
「…言ってもらったこと、ないって思って」
恥ずかしくなって下を向いたら、見慣れた焦げ茶色のアスファルト。それでわたしの家の前に着いたことに気付く。
くい、と彼の左手がわたしの顎を掬い上げ、視線が重なった。
「愛してる」
びっくりして目を大きくするわたしを見て、まだローさんは愉しそうに笑う。「これで満足か?」と言いながら、わたしの頭を2回、ポンポンと叩いた。
「じゃあな」
タバコを挟んだ手を上げて、ローさんは今来た道を歩き出した。いつもよりも遥かに小さな歩幅は、わたしが追いつくため。
それがわかってしまったから、胸がきゅうんと疼く。彼の思う通りに動くのはなんだか悔しかったけど、わたしは一歩駆け出した。
「ローさん!」
「ん?」
「満足なんて、してないんだからっ!」
私は愛になりたい(そうしたら、いつでもあなたと一緒に居られる)笑顔感染様に提出
(少しでもみんながほっこりした気持ちになりますように!)