わたしの夢は、お嫁さんになることだ。

小さい頃に近所のお姉ちゃんの結婚式に出た時、ウエディングドレス姿のお姉ちゃんに目を奪われた。「まだちょっと早いかな」なんて言って渡してくれたブーケの香りと一緒に、わたしの脳裏に深く刻み込まれている。


「新婚旅行はどこがいいんだ?」


島にはいつ頃着くんだ?と聞くような口調でローは聞いてきた。わたしは航海日誌を書いていた手を止めてローを見る。
彼は医学書を見ていて、まるでこちらには興味がない風で、さっきの言葉は聞き間違いだと感じるほど。


「え?」


思わず聞き返すと、彼の眉間に深い皺が寄った。やばい、と思った時にはすでに遅い。
目の前に来たローに、頬っぺたを思いきりつねられてしまった。


「ロー、いひゃい!」
「お前は俺の話を聞いてなかったのか?」
「ごめんごめん、聞いてたから!」


頬っぺたにある指が離れた。じんじんする部分を擦(さす)る。
ちゃんと聞いてたからこそ、聞き返したのに。だって、まさか、そんなことをローの口から聞くなんて。


「なんで新婚旅行なの?」


毎日が旅行のようなこんな世界で、なにを言ってるんだろうか。


「いや、」


彼は言葉を濁したけれど、その瞳は答えを要求していて。
――もし行くのなら。仮定として考えることにした。

「ラフテルがいいな」と伝えたら、それは違うと却下された。まさか否定されるとは思わなくて、彼の考えが読めないままひたすら考える。


「……ローの、生まれた島に行きたいな」


咄嗟に出てきた言葉がそれで。ローの目の色が柔らかくなった。


「ふうん、」


ローはまた興味なさそうに医学書を捲り始めた。わたしは少し焦る。
彼が聞いてきたくせに、本人は興味がなくて、わたしが必死に考えたその答えにさえ空返事とはどういうことなのか。

伺うようにローを見ると、ふと彼が笑う。


「わからないか?」


その言葉にわかってしまった。
きゅんと、胸が締め付けられた。思わず頬に力を入れても、筋肉が緩くなるのがわかる。
ローの言葉をそのまま捉えても、自惚れと思わなくていいのだ。


「…いじわる」
「そうだな」


開き直るローに羽ペンを投げる。彼はクツクツ笑いながら軽々とそれを避けた。
泣きそうになっていると、彼がわたしの左手を握った。


「俺と結婚してくれませんか?」

いつもと違うローの丁寧な口調に、途端に涙腺が緩む。はい、震える声で言いながら抱きついた。


「、ロー」
「ん?」
「わたしの夢を叶えてくれてありがとう!」


わたしの夢を言ったことはないのに、ローは叶えてくれた。
だからわたしも、彼の夢が叶う時には隣に居たいと思う。



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