「どんくさいな」
ローの容赦ない言葉の刺に、ユイは黙って肩を落とす。彼女の膝小僧は真っ赤な血が未だに流れていて、ローの冷たい言葉に余計に傷口が痛む気がした。
ユイはベットに腰かけ、浮いた足をぷらぷらと揺らした。
「お前はいい年してなんて怪我してんだ」
「……ごめんなさい」
すっかりテンションが落ちているユイをローはちろりと見やり、彼女の膝小僧の血をガーゼで拭ってやる。痛みに少し引かれた足を手で固定して、そこに消毒液をかけてやれば、ユイは掠れた悲鳴を上げた。
「いったーい!」
「自業自得だ、我慢しろ」
傷口に新しいガーゼを充ててテープで固定し、ローはその部分をペチンと叩いた。途端にユイの瞳には涙が溜まり、彼はニヤリとその瞳を見つめた。
「ローの意地悪。痛いってば」
「早く治るまじないだと思え」
「だったらキスしてくれた方が早く治るよ」
根拠のない言い草にローは方眉を上げる。ユイは痛みに滲む涙越しにローを見つめる。
それからは速かった。
気づいたらユイは背後のベットに押し倒されていて、視界には天井とローしか写らなかった。鼻と鼻が触れるほど近くにあるローの深い青から、2人のユイがこちらを見ていた。
「……誰がお前なんかに」
唇が触れそうな位置で喋るローの吐息がユイのそれに触れる。でも、お互いの唇が重なる前にローは離れた。
「、ロー」
「治療は終わった。さっさと出ていけ」
まだ仕事はたくさんあるだろう、とこっちを見ずにローは言い、消毒液やガーゼを元の薬品棚に片付け始める。
しばらく押し倒されたままローを見ていたユイだけれど、一向にこちらに視線を向けないことがわかると、むくりと立ち上がった。地面に足を付けた瞬間に膝に痛みが走ったけれど、それよりもっと痛い場所に気を取られ、そこが痛いと感じることはなかった。
「ありがと、船長」
ローを一度も振り返ることなく、ユイはそのまま扉を閉める。
彼が拳を握っていることに、彼女は最後まで気づかなかった。
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