目的の酒場まで来ると、ユイは扉を思いきり開けた。
バン、とかなり大きな音がたったが、それよりも騒がしい店内のせいで酒場に居た者たちが気づくことはなかった。
ユイはしばらく視線をさ迷わせ、ある一団を目に入れると真っ直ぐにそちらへ足を向ける。
辺りに散らばる酔っ払いたちの好奇の目を気にすることもなく、目的の人物を見つけ出すと肺いっぱいに息を溜めた。

「キャプテン!」

大きなユイの声に振り向いたのは意中の人物ではなく、その周りに居た同じつなぎを身に纏った男たちだった。
彼らの目がユイを映すと、その目はいつもの2倍ほど見開らかれたが、"キャプテン"と呼ばれた男は相変わらず背中しか見せてくれなかった。
琥珀色の液体が入ったグラスを傾けているのが、彼の被るもふもふの帽子の動きで見てとれた。

「お前、ユイか!?」

キャスケット帽を目深に被った男がみんなの代表にと言わんばかりに、わなわなとユイを指して叫んだ。
ユイはそれにふん、と鼻を鳴らして応え、未だにこちらを見ない男の目の前まで歩いて行った。

「ユイじゃねぇか、どうした」

一気に飲んで空になったグラスにウィスキーを注ぎながら、キャプテンであるトラファルガー・ローは彼女を見上げた。
ククク、と妖しく笑うその瞳の中には、不機嫌さを微塵も隠しはしないユイが映っていた。

「どうしたってキャプテンが呼んだんじゃない。こんな格好までさせて!」

ユイは左手で自分が着るドレスの裾を摘まみ、右手でローの手の中からグラスを奪い、ぐいと中身を飲み干した。
普段は飲まない度数のお酒に、喉がカッと一気に熱くなるのがわかった。
こんな格好、と言ってユイが怒っている原因は、彼女が絶対に着たことのないようなこのドレスのことだろう。




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