酒の臭いと女の匂いに溢れたとある島の港町。
それら嗜好品の香りに誘われるように海賊が蔓延るが、海軍はこの町を知ってか知らずか立ち寄ることはない。
そんな無法地帯の道の真ん中を堂々と歩いてる女が1人。
年の頃20歳前後のその女は、両脇から漂う度数の強い酒の臭いと男のふざけた笑い声に目もくれず、ただ目的地を目指して歩く。
深海を思わせるディープブルーのドレスからは、女性特有の丸みと曲線を垣間見ることができる。
歩く度に揺れる胸まである髪は軽いウェーブを描き、その都度酒で鈍くなった男たちの鼻を瑞々しい香りで満たした。

「よぉ嬢ちゃん、いい身体してんなァ!」
「一晩幾らだァ?」

ゲラゲラと下品に笑って話かける男たちに、ユイの足はぴたりと止まる。
やっと自分に興味を持ってくれたと近づいて来た1人の男の手をピシャリと払う。

「わたしをそこらへんの情婦と一緒にしないで」

払った拍子に男が持つ酒瓶の中身が波打ち、男の手にビチャリとかかる。
ユイの言葉にか酒に濡れた手にか、どちらにせよ酒のせいで良くなっていた機嫌を損ねたらしい男は、眉間に数本の縦線を刻んだ。

「あァ?じゃあお前は一体なんだって言うんだ!?」

アルコール臭漂う口元を彼女の顔ギリギリまで持ってきた男の目は血走り、数刻前に酒に飲み込まれた理性は剥き出しになった怒りの感情に勝つことはなかった。
ユイは男の罵声に一切動じず、易々と向こう脛を蹴りあげる。
尖ったヒールで蹴られた男は痛みにぐうと唸りながら蹲って、彼女に恨めしい視線を寄越す。

「海賊よ」

ユイはチラリと一度だけ男を見やり、ツカツカとまた歩いて行った。


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