「ねえ、シャンクス」
普段より落ち着いたユイの声に、シャンクスは飲んでいた味噌汁を置く。昨日の深酒のせいで遅くに起きたからか、食堂にはユイとシャンクスしか居ない。 この中途半端な時間じゃコックも居るわけがなく、テーブルにはユイが作ったふわふわの卵焼きと味噌汁、ほかほかの白いご飯が載っていた。
「どうした」 「あのね、わたしシャンクスが嫌いなの」 「は!?嘘だろ!?」
思わずガタン、と立った拍子に、お椀から味噌汁が零れた。
「うん、嘘」 「……は?」
布巾でテーブルの汚れた部分を拭きながら飄々と答えるユイに、シャンクスはふらふらと席に着いた。
「…どういうことだ?」 「シャンクス、今日が何の日か知ってる?」 「今日…あぁ、エイプリルフールか」
やっと納得したシャンクスは、ほっとした表情のまま卵焼きを摘まんだ。それに倣ったユイをチラリと見たシャンクスは、しかし真剣な目をしているユイに箸を止めた。
「ユイ、本当にどうしたんだ?」
目尻を下げ心配そうなシャンクスに、ユイは深く息を吸うと真っ直ぐにシャンクスを見た。
「あのね、わたしのお腹に、シャンクスの赤ちゃん、…居ないんだ」 「…それって」
シャンクスの箸からボトリと落ちた卵焼きの様子を、ユイは視線で追った。 シャンクスの頭の中はぐるぐるとしている。恐る恐ると言う風に、上目使いでユイを見る。
「…俺の子を、産んでくれるってこと、だよな?」 「やだぁ、っ!」
涙を溜めた瞳に震える声で告げるユイを、シャンクスはテーブル越しに抱きしめた。拍子にテーブルの上にある食べ物は全て床に落ちてしまったが、気にすることはなかった。
「シャ、ン、クス」 「俺、今、すっげェ嬉しくねえぞ…!」
ぎゅうぎゅうと苦しいほど抱きしめられているのに、ユイは更にシャンクスを強く抱きしめる。
「…幸せに、しないでね?」 「あぁ。お嫁さんにならないでくれよ?」
シャンクスはユイの額にキスを贈り、もう一度きつく抱きしめた。食堂にベンが入って来て、ぐちゃぐちゃに汚れた床を怒鳴られるまで、2人はずっと抱きしめ合っていた。
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