あ、起きる、と頭が感じた時にはもう目が開いていた。すると思ったより目の前に顔があって、寝起き早々びっくりさせられた。
「重い…」 「失礼じゃない?女の子に対して」
俺の上に乗っかりながら、けらけら笑われ、悪戯が成功した子どもみたいな顔をされた。そして、まだ部屋の中は暗いのに、笑顔でおはようと言ってきた。
「…おはよう。いきなりどうしたんだ、こんな真夜中に」 「別に。なんだか目が冴えちゃって」 「髪の毛くすぐったい」 「がまんしてよ」 「我慢って…」
俺の頬にかかる髪の毛をわざと揺らしてくるユイは、相変わらずくすくす笑っている。 片方しかない腕でその頭を撫でてやれば、俺の胸に擦り寄ってくる。
「なんだ、珍しく甘えん坊じゃないか」 「んー」
いつもは俺を手の平で転がすくらい策士な女のくせに。こうしてたまに甘えて来られちゃ、離せなくなってしまう。
「……あのね、目が冴えたなんて嘘なの」 「ん?」 「…本当は、あの時のこと、夢見ちゃって」
尻すぼみになっていく彼女の言葉に、思い出すのは数年前のこと。ヒューマン・ショップに売られかけていたこの少女を、俺が助けたのだ。 今でもたまに、ユイはあの頃の夢を見ては1人で涙を流している。だけど決して怖いとは言わない。 いつも以上にくっついてくる行為は、僅かなSOS。
「大丈夫だ。俺が居る、ずっと守るさ」 「うん。シャンクスと居るとね、すごく安心するの」
そのまましばらく頭を撫でていれば、ユイの目がトロンとしてきた。俺は少し屈んで、目線を合わせる。
「もう少し寝るか?」 「…ん」 「じゃあ俺も」
唇に1つキスを落として、布団を俺の肩までかける。すると背の違いからか、ユイは布団にほとんど隠れてつむじしか見えなくなる。 片方しかない腕で腰を抱いて、眠る体制に入る。すっかり甘えん坊モードの彼女は、もぞもぞ動いたかと思うと、そのまま俺の頬にキスをした。
「っ――!」 「シャン、おやすみ」
布を隔てた体温がもどかしくなるのに、そうさせた本人は既に夢の中らしい。白く霞み始めた空の元で、俺は眠れず迎えるだろう朝をひたすら待つのだった。
君の海は思ったより深い だけどどこへだって引き上げてみせる
title by. joy
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