「綺麗だ、ユイ」
「…なによ、普段は絶対に言わないくせに」
「いいだろ、こんな日くらいは言っても」

玄関から出て真っ先に降り注いだのは、昨日から降っていた粉雪ではなくてローからの賛辞の言葉だった。滅多に聞かないローの褒め言葉に、顔に熱が集まって赤くなっていくのが自分でもわかった。

「ローもすごい似合ってるよ」
「ありがとな」
「やっぱりスーツにして正解だったね」

いつものパーカ姿と似ても似つかないローのスーツ姿は、お世辞抜きにかっこいい。
褒めてあげると、ローは頭を撫でてくれた。いつもよりずっと弱々しく撫でるのは、セットしたわたしの髪型が乱れないようにというローの優しさだ。

「ね、ルフィとキッドは袴かなあ?」
「そうだろうな」
「ふふ、楽しみだな」

差し出されたローの手に自分の手を重ね、指を絡める。するとびっくりするほど寒さが和らぐから、ローの手は魔法の手なんじゃないかと思ってしまうくらい。
履き慣れない草履で歩くわたしに合わせてゆっくり歩いてくれるローに嬉しくて笑いかけると、普段じゃ考えられないくらい優しく笑いかけてくれるから、もうそれだけで大満足だ。

「それより、赤じゃないんだな」
「なにが?」
「振袖の色」

ユイは赤だと思ってた、とローに言われたけど、実際わたしは藍色の振袖を着ている。本当は赤も気になってたけど、少しでもローと同じ色の振袖を探したなんて。
恥ずかしいから絶対に言ってあげないんだ。




会場に着くと、辺り一面人、人、人。これだとはぐれそうだと思ってローと絡む指をぎゅっと握れば、遠くからわたしたちを呼ぶ声。
急いでキョロキョロ周りを見れば、もう先に居たらしいルフィとキッドが見えた。

「ねえロー、あれ」
「あぁ、あいつらが早く居るなんて珍しいな」

人波をくぐり抜けて、ブンブンと手を振るルフィ達に近づいていく。

「遅ェぞお前ら。待ちくたびれたぜ」
「ごめんね、キッド。草履で歩いたら思ったより遅くなっちゃった」
「俺は気にしてねェぞ!」

ルフィもキッドもやっぱり袴で、すごく似合っていた。
軽く話した後に、会場のホールへ入る。途中で会ったボニーと一緒に写真を撮ったり、中学校で担任だったドレーク先生に挨拶をしたり。
ベッジ市長のお祝いの言葉が長すぎて思わず4人で抜け出せば、寝坊してやっと来たゾロと遭遇した。袴だと思ってたのにスーツだった彼の思わぬギャップに見とれてると、それをローに気付かれて痛ーいデコピンを喰らってしまった。

「この後ホールで、あのアプーがライブやるらしいぜ」
「え、アプーってあの有名バンド“ルーキー”の!?」
「あぁ。なんでも出身がこの地域らしいからスペシャルゲストとして出演するんだってよ」

キッドの鶴の一声で再びホールに戻れば、ちょうどアプーのライブが始まるところだった。そこで偶然キラーも見つけて、みんなでライブを聞いて盛り上がった。

「楽しい成人式だったね!」
「おぅ!」
「俺達が成人ってのも実感ねェけど、ユイが成人って一番違和感あるよな」
「確かに」
「なによみんなで!」

わいわい騒いで歩く帰り道。
年齢ではもう成人を迎えたけれど、こうして会って騒いで大笑いするのは、初めて会った頃と変わらない。大人になんてなりたくない、なんて無茶なお願いはしないけど、この関係はずっと子どもの頃のまま、なんて我が侭くらい言ってもいいのかもしれない。

「ねえ!大人になってもみんな一緒だよね?」

時が経つにつれて会う回数も減ってきて、少し不安になってたのかもしれない。だから思わず立ち止まって聞いてみてしまった。

「おう」
「なんだよユイー、そんなこと気にしてたなんてつれねェな!」

キッドとルフィがすぐに肯定してくれて、嬉しくて笑ってたら、手を繋いでたローの指が強くなった。思わずローを見れば、彼は初めて見る優しい笑顔でわたしを見てくれていた。

「当たり前だろ、ずっと一緒だ」
「うん!」

今度は嬉しすぎて涙が溢れそうだったけど、がんばって堪えた。
成人式は一つの区切りだけど、わたしたちの関係は一つも変わらない。ゆっくり一歩ずつ大人になっていって、これらの絆も更に築き上げていくんだ。


新しい瞬間(とき)を刻む


「よーし!今日は食うぞ!飲むぞ!食うぞ!」
「ルフィ、わたし明日から試験だからあんまり飲ませないでね」
「俺は明日から附属の大学病院で研修だ」
「お前らカップルは空気壊すこと言うなよ!!」



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全国の新成人たちへ、1日早いけど成人おめでとう!
ゆに




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