毎日のようにみんなとわいわい騒ぐ宴も、半分以上が甲板で眠るという状況で、そろそろ終焉にさしかかっている。少しだけ冷たい海風が頬に触ると気持ちいい。 起きているコックさんたちが床に散らばったお摘みを片付けているのが見える。そこでふと、ローの姿が見えないことに気づいた。キョロキョロと辺りを見渡せば、船尾に1人で居る彼を発見。
こっち向いて、――向かないで
矛盾した考えを持ちながら、そろりそろりと近づく。 だけどやっぱりわたしも酔ってるのか、覚束ない足取りのせいで甲板の床がミシリと大きい音をたてた。その音にローがこっちを振り向いた。 残り数歩の距離をすぐに埋めて、思わずぎゅう、と後ろから抱き締めた。海風に晒されていた彼のパーカが冷たくて気持ちいい。
「どうした、寂しかったのか?」
その言葉で、今日初めてローに触れたことに気づいた。そういえば彼は今日ずっと、自室から出てこなかったんだ。だから寂しくて、宴でやけ酒して、いつもより少しほろ酔い気分なんだ。 認めたくないから、急いでローを抱き締めていた腕を解く。でもわたしの体は正直で、知らずの内に隣に立って彼の小指を握っていた。
「ねえ、ロー」
寂しかった、の代わりに握る力を少し強める。くつくつとローの肩が動くのがわかった。
「素直じゃないな」
そう言うローこそ、黙って腰を抱くなんて。素直じゃないな。 くすくす笑うとローも、わたしが想うことに気づいたみたい。ユイ、と耳元で甘く囁かれたら、笑ってなんかいられない。 熱い口唇を押し付けて、今までの寂しさを埋めに部屋までの道をくっついて歩こう。
title by.ishi
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