いつもいつでも思い出すのは、ニヤリと妖しく口の端をあげるあの笑い方、キャスケットをバラバラにしながらお酒を飲む顔、いつだって元気なところしか頭にないのに。 なのになんで、今のローはわたしの思い描くローじゃないの?本来白くあるべきはずの赤い布が、彼の腹部にぐるぐると巻かれている。 そんなローの寝顔を見ると、涙が溢れそうになる。だからわたしはギュッと目を閉じる。 だってローは死の外科医だもん。ペンギンだって命に別状はないって言ってたし、絶対に目を覚ますから、泣く必要なんて全然ないんだから。
「‥‥ユイ?」 「‥ロ、ォ?」 「なぁに情けねぇ顔してんだ、」
余裕そうに言われて、そんな顔させてるのはローでしょ、そう言い返したかったけど泣き声を堪えるのに必死でなにも言えなかった。だから斬られた脇腹を叩いてやった。 (さすがに少しやりすぎたって思ったけど、ローが悪いんだもん。)
「‥い゛、っ」 「そりゃ叩いたから痛いでしょうね」 「ひでぇ女だな」 「言われなくてもわかってるよ」
余裕そうな笑みは相変わらずだったけど、そこに眉間の皺が何本か増えてた。わたしは後何回この笑顔を見れるんだろう、と考えたら止まってた涙がまた溢れてきそうになった。
「なに泣いてんだ」 「だっ、て‥ロー、が」 「‥俺?」
死んじゃうかと思った。思わず溢れた本音に、ローに勝手に殺すなと苦笑で返された。 痛む腹部を抑えてローが起き上がる。ぐしゃぐしゃと乱暴に簡易ベッドの隣に座るわたしの頭を撫でる。それで泣き止むなんて思ってたら馬鹿じゃないのあんた、逆効果なんだから。
「‥ロー、」 「ん?」 「わたしね、あなたの夢を、応援、できない」
必死に言葉を探してみたけど、遠回しじゃダメだと思って直接言った。ローは頭を撫でる手を止めて、一瞬大きく目を見開いた。
ローのことは好きよ。好き、好き、大好き。だけどローが海賊王になるという偉大な夢を叶えるなら、こうして得も言われぬ傷を負って帰ってくるから。そんなローをわたしはなにも出来ないで隣で見てるだけしかできないから。 好き、好き、大好き。だからこそ
「傷を負うローは嫌い」
わたしのことも嫌いになっていいから、そんな苦しそうな顔を見せないで。我が儘だってわかってるけど、リスクを背負う夢なんて持たないで。
「‥約束する。二度とユイを不安にさせねェ」
今まで黙っていたローの口が開く。頭を撫でる手も再び動いた。
「だから、嫌いだなんて言うな。ソレが1番、傷に堪える」
弱々しい力だったけど、そのまま抱き締めてくれたローの温かさに、わたしはまた涙が溢れた。
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