「…なによ、」

不機嫌さを隠さずに言った言葉に、ローは黙ってユイを見下ろすだけだった。
彼女の瞳には絶望が色濃く映っていたが、まだ諦めるまいと言う信念も力強く残っていた。
例えるなら威嚇をする野良猫のようなその姿に、隣に立つ白くまは優しく話しかけた。

「ねえ大丈夫?腕、怪我してるよ!」

珍しい喋る白くま、ベポに話しかけられたユイは目を見開いた。
同時に指摘された腕の傷がずくりと疼き、彼女は傷口を押さえて倒れこんだ。

「傷口を汚い手で触るな。余計にひどくなる」
「ぐぅ、」

二、三歩で埋まる距離を一気に埋めて、ローはユイの患部を掴んだ。
ユイは痛みに顔を歪めるが、それを見たローは楽しそうに、このままだと出血多量で死ぬぞと笑いながら言った。

「うるさい触るなっ!お前に関係ないだろ!」

その時ローは振り払われた腕についた見慣れないドクロに気付いた。
確かつい先日この島の近くの海域で、海軍が海賊団を1つ潰したと聞いていたから、彼女はその海賊団の残党だろうか。

「仲間は捕まって自分は死にかけか、ざまァねぇ人生だな」

その言葉にユイは思いきりローを睨み付けた。
深手の身体でまだまだ残る瞳の強さに、ローは深くなる笑みを止められなかった。
ローはしゃがんでユイに目線を合わせて、刺青だらけの手を差し出した。

「俺について来い。お前の"元"仲間じゃ見せられなかった世界を俺が見せてやる」

その言葉に、初めてユイの瞳が揺らいだ。
力強い炎を持ちながらも、一つだけ涙を溢した。
ベポ、とローが呼べば、彼はアイアイと元気よく叫びユイを抱き上げた。

「…お前、なんかにっ、見せられるもんか!」

口では悪態を吐きながらも、ベポに抱かれた身体は抵抗を見せない。
野良猫を少し手なずけたような気分にローは支配者の笑みを浮かべ、それに見慣れた部下たちは今後躾られる彼女の行く末に同情のため息を贈るのだった。





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