「雨だね」

「あぁ雨だ」

「寒いね」

「あぁ寒い」


なまえは源田をちらりと盗み見た。昇降口(というよりは凱旋門のように見える)の屋根から滴る水滴は、彼の頬に当たり、小さく弾ける。源田はそれを右手で拭うと、なまえに視線を移した。


「なまえ、傘あるか?」

「ない」

「…俺も、ないな」


いかにも残念そうに瞳を閉じる源田に、先に帰っていいよ。となまえは言った。すると彼はなまえが帰るまでは帰らないと首を振る。


「…そんなのプレッシャーなんだけど」

「俺もお前を残して行くのはプライドに関わるな」

「…いいよ、別に。迎えに来てもらいなよ。私は雨を見てるから」

「なら、俺も見てる」


そう呟いた源田を、なまえは見上げた。その更に上を源田は見上げていて、空の雲が彼の瞳を濁していた。再び垂れた水滴が彼の瞳の近くに落ち、頬をなぞる。それが泣いているように見え、なまえは不思議な気持ちで魅入っていた。


「ねぇ」

「…なんだ?」

「寒いね」


源田は目を細めてなまえを見る。その表情は穏やかそのもので。水分を含むそよ風が、やけに冷たく感じた。


「…いや、あったかいよ」


答えた言葉は胸に留まり、温かくなる。いつの間に止んでいたのだろう、いまだに二人は空を見ていて。いつの間に繋がれたのだろうお互いの手と手を、確かめるように握りあった。


「綺麗だね」

「…あぁ」


薄く架かる十二色の橋を、潜るように二人は歩きだす。彼の瞳はすでに輝き、澄んでいた。




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