付き合うってどういうことなの?


彼女はいつも呟いた。泣き出しそうな、それでも諦めきれないような、湿りを含んだ声。俺はまたかとため息をついて、睨み付ける。すると、びくりと怯えたように、なまえの視線は向こうに泳いでいってしまった。

いつも、いつもだ。みんなでいるときは、お前らはいつも一緒にいるなぁと茶化され、はにかんでいるくせに、二人きりになった途端、不安そうに身を縮ませる。俺に不満があるとしか思えないその態度、気に入らなかった。


「こ、幸次郎…ごめんね?私…」

「だまれ」


伸ばしてきた手を振り払う。ぱんっと鋭い音が響き、なまえは目を見開く。ついには涙を流し始めた。うっうっと嗚咽を交えて泣いている。なんだよ。俺が悪いっていうのか。腹の底から苛立ちがふつふつと沸き上がる。


「餓鬼みたいに泣くな!」


髪の毛を掴んで床にたたき付けると、なまえは手の平をぎゅっと握りしめたまま、ごめんなさいごめんなさいと身を震わせた。


「泣くんじゃないと、いっているだろう」


怒りのまま、感情のまま、彼女の四肢を蹴りつける。蹴ると同時に呻くので、なまえの声がリズムよく部屋に響いた。その音が徐々に心地良くなって。蹴るのを止めてもなお、なまえは泣き続けた。


「…つ、付き合うって、こういうことなの?き、傷つけ合うってことなの?」

「またその話か」

「ねぇ、幸次郎教えて。付き合うってどういうことなの?」

「やめろ」


いい加減うんざりだった。周りの恋人がしてるみたいなことを求めるなまえ。あんなことをして、何が楽しいんだ。ただの自己満足じゃないか。俺はそんな独りよがりに甘えたりしない。形のある愛を求めたいんだ。










ある日、なまえはついに心が折れた。時期には似つかわない、清々しく晴れた日。彼女の眼差しは、揺らぐ事を否定していた。


「なん…だと…」

「二度は言わない。………別れて」


がたがたと体が震えた。有り得ないと頭が否定した。肩を掴もうと延ばした腕も、あっさりと跳ね退けられ、彼女は背を向けて歩きだす。その腕やその足には俺が付けたであろう痣やキスマークが痛々しく残り、それが今まで俺がしてきたことを形として示していて。


「ま、待て…!」


俺はやっとここにきて、なまえの大きさを知った。…でも、もう遅い。なまえは、あいつは。


「頼む、なぁなまえ。謝るから、今までしてきたこと全部。だから…」

「……………うるさい」


俺のせいで心を閉ざしてしまった。あいつに言ってきた言葉を、あいつはなぞった。そしてあいつが言った言葉を、俺がなぞることになるのだろう。


別れるって…、どういうことだ…


その答えは、誰も返してはくれない。




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