嫌い。


と、なまえに言われた。彼女自身、言った後にハッとしていたけれど、俺が薄く笑ったら、後ろめたそうに背中を向けた。でも、本当は、ひどく傷ついていた。今すぐにでもなまえの肩を揺すぶって、否定の暴言を吐いたり、痛みを知らない柔肌に、この右手を打ち付けてやりたいなんて、恐ろしいことが浮かぶ。俺はかぶりをふって、天井を見上げた。





どうしてだろう。人間の本質であるプライド。それを著しく傷つける言葉や行為は、同じ方法で返されるべきだ。俺はそう思う人間だから、今までだってそうしてきた。言われたら言い返して。傷つけられたら傷つけて。誰のことも考えず、自分だけを第一にしてきた。ただし、それらのことは頭の中で行うだけ。いくらなんでも、面倒ごとは勘弁だ。例えば、ばか、と言われて、うるさいだまれよ、あんたのほうが数倍馬鹿だと思っても、表面では笑っていた。すき、と言われて、俺はあんたみたいなビッチは嫌いだけどなと思っても、表面では照れていた。頭を教科書ではたかれた時は、金属バットで頭をかちわって、脳みそか血か体液か分からないくらいぐちゃぐちゃにしてやりたい衝動を抑えた。でもやっぱりそれらを実際に言葉に発したり、行為に移したりするのは良くないことなんだろう。我慢ばかりしていたと、自分でも思う。





それはなまえに対しても同じだった。でも、そうしなかった。できなかった。相手が、なまえだっただからだ。





なまえが大切だからこそ、俺は我慢しなかった。なまえには俺を知って欲しかった。今だって、喉がかれて、手の甲に血が滲んでいるが気にしない。全てなまえのためだ。










…………うそ、……です、…………幸次……郎。…………本当、……は、……好き、……で、す……










泣きながら、震えながら。なまえは俺に縋ってきた。それこそが本質。それこそが真理。俺は彼女の頭を撫でながら、自分自身の正当性に満足していた。俺を満たしてくれるのはなまえだけ。





ぎゅっと彼女を抱きしめると、生温い血が肩を濡らした。




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