「なぁ、なまえ」

「ん?」


私がわさわさと部室の片付けをしていると、幸次郎が名前を呼んだ。声につられるまま振り向いてみれば、そこには私の携帯の裏を見る幸次郎が立っていて、他愛もない疑問をぶつけられた。


「この携帯に貼ってある写真。一緒に写ってるの誰だ?」

「…写真?…あ、あぁプリクラのこと?それは雷門中の秋ちゃんだよ。この前試合で知り合ってから仲良くなってね…」

「へぇ、どうりで見たことがあると思った。二人とも可愛く写っているじゃないか」


ほら、と彼は私に携帯を放り投げ、にこりと邪気のない顔で笑った。私は可愛いなんてことを言われるのは慣れていないし、ましてあの幸次郎に言われたので恥ずかしくて真っ赤になって。


「い、いや。秋ちゃんは可愛いけど、私はそんなんじゃないから。今度会ったら言っとくよ、あはは…」

「ん?お前も可愛いぞ?…照れているのか?」

「い、いやいやいや。嬉しいよ、ありがとう。でもほらプリクラって写りでなんとでもなるからさ、サギプリってやつだよ。だから…」

「照れるな、なまえ。十分お前は可愛いよ」


それを聞いて、かぁーっと熱が一点に集まるのが分かった。顔が熱くて熱くてたまらない。どうせお世辞だっていうことは分かっているのに、とても恥ずかしかった。


「ふ…」


しばらくすると、幸次郎がくつくつと喉を鳴らして笑っているのが聞こえてきた。えっと思い彼を見ると、目に涙を溜めて、身を屈めるように笑っているではないか。そこでやっと気が付いた。私はからかわれたのだ。


「こ、幸次郎…!!」

「はは、悪い悪い。お前があんまり慌てるもんだから面白くてな。そういうところが可愛い」

「う、うるさい!」


やられたと思った。いくら男性経験がない私だからといって、そんなふうにからかうことないじゃないか。ちょっとムカッとしたので、幸次郎に背を向けて作業に戻る。


「なまえ、そう怒るな。本当のことを言ったまでだ」

「うるさい!」

「…なまえ…」


幸次郎はうーんと唸ったあとに、私の背中に近付いてきた。それは気配で分かっていたけれど、あえて振り向くことはしない。


「なまえ、あのな…」


幸次郎は私の耳元で囁きだした。唇が耳たぶに触れ、どきりとする。


「俺、秋さんに嫉妬してしまうな。お前を独り占めできるなんてさ。俺もお前を独り占めしたい。ずっと一緒にいたいな」


ぐっと壁際に押され、気がつけば背中に壁、目の前には幸次郎の胸板があった。頭上からはすうすうと幸次郎の呼吸が聞こえ、私の体温か彼の体温かわからないけれどとりあえず体が熱くてしかたなかった。


「こ、幸次郎…?」

「…………」

「あの…」

「だめか?なまえ…」

「そ、その…」


私が何も答えられずにきょどきょどしていると、またあの笑い声が聞こえてきた。


「くっくっくっ…」

「えっ?幸次郎…あんたまさか…」

「ははは、なまえをいじめているときが1番たのしいな!」

「ば、ばっかじゃないの!」


幸次郎をべちべち叩いてみたけれど、彼は全く気にしていないようだった。それどころか私を抱きしめて、そういう可愛いところが好きだよと、嬉しそうにいうのだ。私は恋人同士だったからよかったものの、これが友達同士とかだったら、とんだ変態だなぁと思った。




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