「みょうじ先輩は帝国の源田さんと仲が良いですよね!お二人はどんな関係なんですか?」


先輩は驚いたように私を見て、目をぱちくりさせた。私が笑いかけるとすぐに目を背け、今は何事も無かったかのように白いタオルやら練習用のユニフォームやらを干す作業に戻っている。


「…べ、別になにも」


しばらくして先輩は呟いた。私が疑わしそうに見ているのに気づいたのか、焦ったように付け加える。


「幸次郎はあれだよ、えっと…その、小学校が一緒だったから…」

「幼なじみなんですね!」

「そうそれ」


私は持っていた手帳に走り書きする。先輩はそれを心配そうに見つめていた。


「…そんなの書いてどうするの?」

「いえいえ、情報は持っているだけでスキルになるものなのです!」

「…そういうもの?」


ふーんと納得いかなそうな顔で、先輩は唸った。私は話を逸らすため、…まぁじつは本題はこちらなんですけど、先輩の仕事を手伝い始めた。


「…そういえばみょうじ先輩。源田さんって、先輩のことなんて呼んでます?」

「…は?」


ぴたりと先輩は手を止めた。流石になにかあると思ったらしく、警戒しているようですぐには答えてくれなかった。だけど先輩は頭で考えた後に、ぽつりと言った。


「………なまえ」


やっぱり!私は嬉しくなって、心の中でガッツポーズをした。


「ふふ…。先輩、私聞いちゃったんですけど、源田さんは先輩のことしか名前で呼ばないらしいですよ!お兄ちゃんですら、鬼道!ですからね!」

「え、あ…え!?だ、だだだ、だからなに!?意味が分からない!!そんなの幼なじみだからに…」

「幼なじみだからこそ、じゃないんですか?」


先輩は真っ赤な顔で、動きを止めた。言葉も止まった。先輩の時間が止まったみたいだった。


「…だ、だからなに?」


苦し紛れの言葉は、本人にも分かるくらいに震えていた。





君の名前だけ特別視。





それしか気持ち、伝えられないから。




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